
平方河岸から500mほど上流へ移動。目的地は荒川に掛かる西野橋。
川岸にはサイクリングロードがあって走れるようだが、私は車での移動だ。

崖線の坂を下りていくと、堤防の北端に地蔵堂がある。

地蔵堂から先は堤防の外側なので、川が増水するときには水没する土地になる。つまり河原だ。

目的の西野橋は河原にある橋なのだ。
沈下橋の定義は「堤外地にあって橋げたが川の両岸の堤防よりも低い位置にある橋」ということだから、その定義からすれば西野橋は沈下橋といえる。
荒川本流では最も下流にある沈下橋だ。

荒川中流域は川幅が広くで、河原が農地やスポーツ施設等に利用されている。そうした農道の水路にかかる小さな橋も厳格に言えばすべて沈下橋ということになるから、荒川の中流域の沈下橋をすべて確認するというのは、砂漠で砂を数えるような無謀な行為といえる。
そこで、当サイトでは単に水没するかどうかではなく、水没したときに被害を受けることを設計に盛り込んでいるものを沈下橋と見なすことにしている。
たとえば農地の用水路をまたぐような小さな橋は、冠水しても濁流が橋に押し寄せるということは想定していない。水路の水があふれて橋床に泥をかぶったり、草が欄干に絡んだりする程度だ。荒川本流で20~30年に一度というような大水害が発生するときには、農地にも流木が流れ込んで橋が傷つくかもしれなが、橋の設計者はそこまでは想定していない。そのような普通の橋はたとえ時々冠水する場所にあっても沈下橋とは見なさないこととする。

前述の狭義の定義からしても、西野橋は沈下橋である。
欄干がパイプで穴に差し込んであるだけなのだ。それだけだとグニャグニャだから、ワイヤーを張って強度を持たせている。

一般的な橋は欄干が剛構造で、コンクリートや鉄製の手すりやガードレールなどでできている。それだと冠水時に欄干にゴミが溜まると、水流の力で橋げたが損壊することがある。
この橋ではワイヤーの取付けはシンプルなボルトなので、氾濫の危険性が高まると橋の管理者である市の土木課担当者が来て、ボルトを外して欄干を撤去するのかもしれない。これが冠水を想定した設計ということだ。

また、河原のゴルフ場に配水する水道管が橋げたの下流側に併設されていて、水没したときでも水流から守られるようになっている。

荒川右岸から見た西野橋。
当サイトでは四国の沈下橋をいくつか紹介してきた。その多くはコンクリの剛構造で欄干がなく、橋脚と橋げたが沈下時の水流に耐えるようになっている。それに比べると荒川の沈下橋はやや心許ない感じだ。橋脚はいいとして、橋げたがアイビームの鉄骨ではたぶん強い水流には耐えられないだろうと思う。だが、山間地に多い四国の沈下橋と違って、荒川中流ではそこまでの濁流は発生しないのかもしれない。もし運悪く橋げたが破壊されたら、その時はその時で作り直せばいいと考えているのかもしれない。シンプルな構造だから再建費用も安くすむはずだ。
つまりこの橋は沈下橋と流れ橋の両方の性質を持っているのである。荒川本流の沈下橋は基本的にこのような取り外し式の欄干を持つ鉄骨のラーメン橋が多い。支流の沈下橋には見られない特徴だ。これは荒川本流独特の風景と言えるだろう。

川の右岸はゴルフ場と農地になっている。
道路はゴルフ場の専有道路ではなく農地へ通うための道にもなっているので、一般人も橋を渡ることができる。

右岸の欄干。
こちらはワイヤーのボルトに余裕がないから、ボルトの締めつけ作業は左岸側でやるのだろう。

西野橋から見た荒川の上流。
荒川は延長173km、流域面積も広い大河だがこのあたりは川幅が狭くてかなり違和感がある。荒川はもともと大宮台地の東側に流れていたのを江戸時代に瀬替えしたり、大正時代に直線化したりで、人が作った風景なのだ。

下流方向の風景。
開平橋が見えている。
(2022年11月06日訪問)