川が増水しても簡単には被害が出ないように、現在では川の下流では両岸に堤防が築かれている。でも堤防の高さも無限ではないから、想定以上の水位になった場合は水が堤防を超えることも起こる。
荒川の下流には第一調整池という遊水地があり、水位が本当にヤバくなったときは川の水を遊水地に逃がして下流の堤防を守るようになっている。

そのようなとき大量の水を堤防を超えて流し込む施設が越流堤である。
荒川第一調整池の越流堤は、調整池の最上流の部分に造られている。
これは荒川の左岸を下流方向に見た景色。

この黒っぽく見える部分が越流堤だ。
堤防よりもわずかに低くなっているので、他の場所で水があふれるよりも前にこの場所から水が流れ込むのだ。そのため水流で浸食されないようにコンクリとアスファルトで固められている。
もし土で出来ている箇所から水が越流すれば、土が流されていわゆる「堤防が切れた」状態になって濁流が一気に流れ込んでしまう。そうすると復旧するのにも大きな工事が必要になる。

越流堤を上流方向へ見たところ。
こうして穏やかに堤防内へ水を導き入れるのも、長年、水害と戦ってきた人の知恵である。
実際、荒川第一調整池は平成になってから2回機能したようだ。水が流れ込む先は、球技のグランドになっている。

2024年に訪れたとき、越流堤の周囲は工事現場のような状態で、土手の上を歩くことができそうになかった。もしかしたら2019年の増水の後処理が続いていたのかもしれない。
仕方がないのでドローンを人の視線の高さに飛ばして撮影。

ここは越流堤の法面。水位を示すゲージが描かれていた。はっきりと堤防が低くなっているのがわかる。
堤防が切れたことのある場所でよく聞く噂に、川の両岸の堤防の高さが見てわからない程度に差が付けてあり、人口の少ない側を決壊させるというものがある。私が以前住んでいた徳島でも、吉野川の堤防は北側がわずかに低いという噂を実際に何度も聞いた。
越流堤はそうした見えないものではなく、誰が見てもわかるように造られているのだ。

越流堤の鞍部。
ここを水が流れる。

越流堤の横にはピクニックの森という河畔林がある。面積は約15ヘクタール。

せっかくなのでピクニックの森の中に入ってみよう。
駐車場はかなりの台数が置ける。もちろん無料。
この道路も駐車場も、遊水地に水を入れるときには水没するのだろうな。

森の外周にはジョギングコースみたいな舗装路がある。

ジョギングしている人がいたが、ヤブ蚊がひどい。
まだゴールデンウイーク前だというのに、巨大な吸血性の蚊が群がってきて何箇所も喰われた・・・。一箇所に立ち止まっていられない状態。

コースの内側の森。
ケヤキ、ムクノキ、クヌギ、ハンノキ、シュロなどが鬱蒼と茂る暗い森だ。私が住む群馬の河畔林はニセアカシアが優先する明るい林が多いと思うが、ここはだいぶ様相が違う。河畔林というよりも、農家の屋敷森や薪炭林のような雰囲気だ。洪水も10~20年に1回くらいペースだからほとんど撹乱を受けていない森なのだろう。

遊歩道のようなものがあったので森の中へ入ってみた。ヤブ蚊がまとわりついてくる。
これだけの森だから、タヌキなどのほ乳類も住んでいて、そうした動物を狙って蚊が潜んでいるのか。遊歩道から外れて歩くのも自由だが、あんまり歩きたくない・・・。

林床にはジャノヒゲのような植物が多い。倒木も放置されていて、公園としてはかなり自然度が高いといえる。
都心から近い場所で「凶暴な森」に行ってみたいという人にオススメの場所だ。
(2024年04月26日訪問)