蚕霊塔

埼玉県蚕糸業協会が建立した蚕の供養碑。

(埼玉県熊谷市万平町)

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万平公園の片隅に不思議なオブジェがある。

これは蚕霊塔という蚕の供養碑だ。

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かつて公園の東側に繭検定所があった関係で、この場所に供養塔が建てられたという。

塔が建てられたのは昭和36年(1961)で、建立の主体は民間の埼玉蚕糸業協会だった。

昭和33年の航空写真を見るともう公園は存在していて、蚕霊塔がある位置に何か白っぽく見えるものが確認できる。もしかして現在の蚕霊塔は2代目なのか?

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群馬県の繭検定所にも蚕霊塔があることは過去の記事で書いた。やはり民間の業界団体が寄贈したものだ。群馬県の蚕霊塔に比べるとこの蚕霊塔とても意匠に凝っている。

デザインは地元の芸術家新海竹蔵によるもので、埋め込まれているレリーフも手がけている。

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なんといっても目を引くのは、塔の上に乗っている繭のオブジェ。御影石のざらっとしたテクスチャが本物の繭の表面にある皺を上手く表現している。

このように中央部がくびれた落花生型の繭って、実は日本の古い品種の形状で、盛んに生産されたのはおそらく明治前半くらいまで。この碑が発注された戦後にはくびれのない俵型の繭を作る品種が主流だったはずだ。

だが、日本人の多くが今でも繭といえばこのくびれた形を想像するし、怪獣映画のモスラの繭もくびれている。

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左側のレリーフは「桑つみ」という題材。

何の知識もなくこれを見たら、葡萄の収穫かな、と思ってしまいそう・・・。

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右側は「繭かき」という題材だという。

これはどうなんだ? 後ろのほうに木箱の棚みたいなのがあるし、これは繭かきというよりも乾繭の場面なのではないの?

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案内板によればこの場所に繭検定所があり、石倉町にに県立の蚕業試験場もあったという。

基本的にこの2施設がある町はその県の「蚕都(さんと)」と言っていいと思う。

(2023年08月23日訪問)