県道93号線、群馬県最後の集落、勧能。
それまで続いてきた深い谷が急に開けた明るい場所だ。
家々を見るとほとんどが切妻総二階の養蚕農家の建物。群馬県内に巨大な養蚕建築が連なる集落がいくつかあるが、個人的には勧能の町並みはそれらの中で最も美しく見ごたえがあるものだと思っている。
養蚕集落というと旧六合村の赤岩が重伝建に指定されている。だが私はどちらかといえば、南牧村の勧能集落それに隣接する長野県側の馬坂集落をひとまとめとしたこの地域こそ、群馬県で最も見ておくべき歴史的町並みだと思っている。
ん? 重伝建に指定されていない無名な集落がオススメってどういうこと? と思われるかもしれない。重伝建の指定は、現代においては古建築をくり貫いて直売所やカフェにしたり、にわかなワークショップを開催するためのお墨付き制度になってしまっている。町並みに価値があるかどうかが出発点ではなく、町おこしをしたい行政の要請があるかどうかで認定される傾向があるのだ。
南牧村の奥地では過疎化と高齢化のため、集落の意見を束ねて町や県を動かしていくエネルギーがもうないのかもしれない。そこに住む人たちが静かに暮らしたいと願っていたら重伝建指定の話はそもそも始まらないのだ。
南牧村奥地の産業は江戸時代には砥石鉱山、明治以降は林業、養蚕、コンニャク栽培が主だった。現在の家々の風景は養蚕によって成立したものだ。
だが、現在南牧村には養蚕農家は1戸も残っていない。また、県北や県西の地域で見られるような桑畑の痕跡なども見当たらない。畑にする土地が少ないために桑を放置せずすぐに他の作物に転用したからではないかと思う。
村の中央部にある観音堂と火の見櫓。集落の仏堂ってたぶんここだけ。
勧能は大きな集落なのに、集落内に寺社がないのが不思議だ。
出梁作りの養蚕農家。倉庫にもバルコニーがある。
群馬の平野部で見られる豪華な気抜き櫓はあまり見られない。こうした養蚕用櫓のない切妻屋根の集落は下仁田以西、荒船、碓氷の特徴だと思う。
ひとつだけ櫓が載っているのは、養蚕のための換気というよりは囲炉裏の煙を抜くためだろう。
3階の民家。
2階に3階を継ぎ足したのではなく、初めから3階で造られている。
集落の東のはずれあたりに密集する2階養蚕農家群。一部3階建ても見える。
崖屋の3階建ての農家。
崖屋の3階建て納屋。
奥に赤い屋根に2つ櫓を載せた家があるが、その背後がかつての段畑だ。
おそらく自家用の穀類や野菜などを作ったのだろうと思う。桑畑にしては畝が狭すぎるので。
近くの集落で聞いた話では桑畑は山の上のほうにあったという。急傾斜地でどんな栽桑がされていたのか見てみたかった。
川のすぐそばまで家が建ち並んでいる。とにかく少しの土地も遊ばせずに使う暮らしぶりだ。
川は2面コンクリートで川底も整理されているが、あまり悪い感じはなく、むしろ川に近づきやすい治水に感じられる。
(2011年04月03日訪問)
