ノタリ洞窟僧院

二つの山が門のようにそびえる場所にある僧院。

(ミャンマーカレン州ラインブエ)

成田からヤンゴンへ向かう便で着陸の30分くらい前、飛行機はタイの国境を越えてカレン州の上空に差しかかる。飛行するルートは50kmくらいの幅がありいつも同じというわけではない。私は寺巡りでいつも衛星写真を見ているので、窓からの風景でだいたいどこを飛んでいるのかがわかるようになっているのだ。

今回は雨季だが、着陸のまえに運良く晴れ間に当たった。窓の下にはコーカレイからラインブエの間のこれまで私が立ち寄ったことがない村々が続いていた。

そのエリアで私が注目している丘陵がある。

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私がピタカ丘陵と呼んでいるその大きな丘陵には衛星写真で尾根にパゴダが確認でき、しかもその一部に洞窟があることが GoogleMaps にラベル付けされている。もし行けるものなら行ってみたいと思っている場所なのだ。

だがそこは前回の滞在で訪れたドゥラン街道→ナブー村エリアよりさらに遠い場所になる。ドゥラン街道ですら外国人が立ち入っていいのか微妙だったのに、まったく様子がわからない土地になるので、こうして飛行機の窓から指をくわえて眺めるだけだった。

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ところがである。偶然にもきのうのソーバウジー墓所訪問でそのエリアを通行することになった。カレン州を横断するメインルートであるAH1号線の工事が投げ出されたまま雨季を迎え、通行が著しく困難になっていた。そのためナブー村へ行く迂回路としてピタカ街道を通行したのだ。

衛星写真では舗装されているのかどうかもわからなかったピタカ街道は、ナブー村までほぼ全線が舗装されていて、途中数箇所の橋で乗用車が通行しにくい段差があるものの、オートバイであれば何の問題もなく走破できることが判明した。そして何よりも嬉しかったのは、途中に民兵が小銃を持って立っているような検問所がなかったということだ。どちらかというとナブー村付近からコーカレイまでのエリアのほうが緊張感がある。

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そうとわかればピタカ丘陵へ行ってみたくなる。きょうは休日なので遠出するための時間がたっぷりある。

ピタカ街道の概要はこの地図のごとし。街道の起点ティロン村まではパアンから20km、ティロン村から目的地のピタカ丘陵までは40kmといったところだ。

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朝から天気が悪く、雨の中の出立となった。

ティロン村のピタカ街道入口。「0 km」のキロポストがあった。

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街道は雨の中。私も雨合羽を着て、あまりスピードも出さずに走り続ける。

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しばらく走ると右側に小山が見えた。

きのう通ったときには車の助手席に乗せられていたが、反対側の景色に集中していたためか、この小山には気付かなかった。

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よし! きょうはまずあの小山を目指すぞ。

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どうやらこの枝道に入ればよさそうだ。

その都度スマホで GoogleMaps の衛星写真を見て現在位置やルートを確認するのだが、この道は出来たばかりで写真には写っていなかった。

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枝道を進むこと約1km。山が近づいてきた。

山は小さくて衛星写真では森と判別しにくい。山があるとわかっていれば見つけられるが、漠然と衛星写真を眺めているだけでは発見は困難な大きさだ。実地調査で初めて気付く場所もあるということだ。

山は2つの山体からなっていて、道はその中央を抜けていく。まるで山が門のようになっている。

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谷間に差し掛かる。

道路の両側に小さなパゴダがあり、ナーガがさながら山門の仁王のように道路をにらんでいる。

こちらは右側のナーガ。

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こちらが左側のナーガ。

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谷間を通り抜けると右側に僧院が見えた。

雨も少し小降りになってきたので、参詣していこう。

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僧院の入口にはチャイティーヨーレプリカがあり、その横には洞窟が口を開けていた。

近くまで行ってみたが、奥は続いておらず、ただの窪み程度。

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僧房がひとつあるだけの質素な僧院だった。

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修行僧もたぶん2~3人しかいない。

その1人に僧院の名前を訊ねた。山の名前が「ノタリ山」とのことだったので、ノタリ僧院でいいのだろう。

洞窟があるか訪ねたら「そこにあるよ」と山のほうを指さしている。おお! やっぱりあるのね、洞窟。

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僧房の中の様子。

けっこう大きい建物なのに、修行僧は少なく、寂しい雰囲気だった。

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修行僧が指さしていた洞窟へ行ってみる。

洞窟といっても、石灰岩の山すそが水没等で浸食されて崖下がえぐれたというような感じの地形だった。

でも一部は貫通している。

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崖下には仏陀が並んでいた。境内にずっと並んでいるので、全体では二十八仏になっているのだろう。

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洞窟の奥へ入って行く。

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でもすぐに反対側に出てしまい、深さは20mくらいだった。

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「浅い洞窟だったな」と思って、そのまま山を巻いていくと、鉄柵がしてある場所があるではないか。

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鉄柵に近づいてみた。

ドアがあり施錠はされていない。

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中を覗いてみたら鍾乳洞になっている。

しかもさっきの穴よりもずっと深そうだし、二次生成物もたくさんある。

ドアをあけて入らせてもらった。

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内部には電線が通っているが、真っ暗。

懐中電灯で進んでいく。

入口付近のカーテンとリムストーン。

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入口付近からけっこう見ごたえがある。

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さらに奥に進んでいこう。

天井は頭をぶつけないように注意して歩ける高さ。

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狭い洞窟だがとにかく二次生成物が豊富。

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鍾乳石。

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内部は一本道ではなく、複雑に枝分かれしている。

この支洞の奥に何か見えるぞ。

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入ってみるとホールになっていて、パゴダが建てられていた。

洞窟の中にパゴダ! 何て荘厳なんだ。

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パゴダの裏側は瞑想所になっていた。

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サダン洞窟イサディア洞窟のような有名鍾乳洞を別とすれば、これまで無名の洞窟寺院の鍾乳洞はだいたい一本道の貫通洞が多く、二次生成物も控えめだった。

だがこの洞窟は内部が細かく分岐している上に、二次生成物が豊富。

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支洞のひとつ。

少し下っていて奥は水没している。

地底湖というにはちょっと規模が小さいが。

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支洞のひとつ。

ここも水没している。

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支洞のひとつ。

やっぱり水没している。

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グアノが積もっている。

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天井には無数のコウモリが鳴いていた。

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たぶんすべての支洞に入ったと思うが、極端に深い支洞はなく、最深部で100mくらいだろう。

だが、そもそも山自体が小さいのに、こんな複雑な鍾乳洞が形成されるというのが驚きだ。

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いや~、いいものを見せてもらった。

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道が続くかぎりは山を巻いてみたが、それ以上は洞窟はなさそうだった。

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山頂に登る道もある。山頂には小さなパゴダがあったが、雨も降っているし、きょうはまだ目的地が遠いので登るのはやめておく。

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山の北側には綺麗な水が流れる小川があった。

乾季にも流れるかどうかはわからないが、けっこうな水量がある。

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美しい小川だった。

日本だったら「カッパが出そうな川」としか形容できない風景だ。

(2019年07月20日訪問)