ピア僧院

山頂ルートにトライしたが途中で挫折、くやしい。

(ミャンマーモン州モーラミャイン)

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半年前に通った道を、再び走っている。

初めて来たときは村をひとつ過ぎるごとに「どこまで行かなくちゃならないんだろう、こんな遠くまで行って大丈夫だろうか」と不安が募ったが、2回目になると同じ風景が通い慣れた道のように見えるから不思議だ。

遠くにタンマサー僧院と、タンマサー村を包み込む壁のような山脈が見えてきた。目的地のピア山はその山脈の奥にある。

ピア山は山頂にパゴダを戴く、推定標高300mほどの岩山である。周囲は切り立った崖で、村側から眺める限り登頂ルートは見あたらない。頼りの航空写真は真上からの画像であるため、崖のような場所に道があっても写らない。

だが山頂にそれなりの建築物があるから、ロッククライミングみたいなことをしなくても登れるはずだ。日本ならこんな場所に建物(主に電波塔など)を建てる場合は、ヘリコプターで建築資材を運搬するのが普通だ。だがミャンマーではどんな険しいところでも、僧侶や信徒のマンパワーで建材を運び上げる。つまり、少なくともズタ袋をかついで登れる程度の登山路はあるはずだ。

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前回は山に近づくルートすらわからなかったが、今回は事前に調査してきたので迷わず進む。

タンマサー村の中を通りすぎ、山から遠ざかりかけたあたりにアーチ形の山門がある。わかりにくい場所にあるが、これが山のお寺への入口だ。

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山門を入った先の風景。

もちろん前回のときもこの山門は気になったのだが、この先がどこかに通じているようには思えなかったので、入らなかったのだ。

今回は事前に地図を見てきたし、スマホのアプリで位置を確認しながらの移動なので、田んぼの畦道のように見えても迷わずに入っていける。

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しばらく進むと家並や林が切れ、ピア山へ続く一本道になる。

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山頂には小さめの2つのパゴダと、少なくとも2つの建物が見える。

これからあそこまで行くのだ!

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山麓には僧院がある。

入口には傘蓋仏(さんがいぶつ)。僧院の入口によくある形式の仏像だ。

画面の右半分を覆っている黒い部分が山。僧院側も容赦のない斜度だ。ほぼ垂直の崖。

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境内の入口には、崖にめり込んだ小さなお堂。

得度堂か。

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さらに進むと仏殿があった。

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内部には7体の仏像。

過去七仏であろう。

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そこ先にはパゴダがあり、狭い敷地に僧房が長屋のように連なっていた。

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パゴダとペアになるタコンタイ。

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おーっと! 早くも登山路を発見!!

さい先がいいな。

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喜び勇んで階段を登る。

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でも階段は30段程度で終わっており、その先は、岩場になっていた。

なんとなくどこにしがみつけばいいかはわかるのだが、いくらなんでもコレは尋常じゃない・・・。

いったん階段を降りて、お坊さんを探す。

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お坊さんに山の登り方を尋ねたら、階段を指差している。

「ファァーッ!?」

ウソだよね? アンタたちその僧衣であの崖を登るの?  だが何度確認してもお坊さんは真顔で階段を指差すばかりだ。

しかたないので階段を登り直して、崖に取りつくことにした。

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ルートは間違っていないことは確かだが、ほぼ常に三点支持(両手両足のどこかひとつだけを壁面から離すという、岩登りの基本動作)で登り続けなければならない。

しかもサンダルで!

岩は風化した石灰岩で、崩れたり滑ったりすることがないのは救いだが、ギザギザしているので落ちたら血ダルマになるだろう。それか…死ぬ。

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少し登ったところに平地があって、仏像があった。

取りあえず水分補給して呼吸をととのえる。

奥に見える岩場が次のルートだ。

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ルートにはペンキのマーキングなどはないのだが、なんとなくわかるようにはなっている。人の手が入っているのか。

だが、、、

本当にここから建築資材をかつぎ上げたのだろうか?

このあたりが険しいだけで、この先は普通に歩けるような登山道になっているのか?

どちらも、そうとは思えない。

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50mは登っただろうか。推定300mの登高なので、まだ1/3も来ていない。

もちろんこのまま1m、1mと、標高を上げていくことはできる。だがこんなことを300mやったあと、また300m下山できる気がしない・・・。

少なくとも運動靴は欲しい。いちいち書いていないが、気温は日本の真夏並みなので、飲み水ももっとたくさん持ってこないとダメだ。

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残念ながらここまでで引き返すことに決めた。

このルートが本当に無二の登山路なのかもう一度調べたほうがいいだろう。そしてここが正規ルートだったとしたら、もう少し装備を考えたほうがいい。

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中腹から東のほうを眺めると二子山が見えた。あの山はモン州とカレン州の境界で、鞍部を州境が横切っている。山腹にパゴダも見える。

ミャンマーに今後も長くかかわることがあれば、いつかあそこまで行くことになるかも知れない。

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帰ろうとすると、ちょうど山頂に太陽がかかり、シルエットとなった黒い崖は私を圧倒するように屹立していた。

こんな寺があるのか・・・敗北を噛みしめながら寺をあとにしのだった。

(2015年11月29日訪問)