明礬地獄

明礬の製造手法が国無形文化財に指定されている。

(大分県別府市明礬)

別府の地獄巡りをまとめて書いたので、ついでに別の日に訪れた地獄もここで紹介してしまおう。

2008年に訪れたときは初めての大分県で土地勘もなく、よくわからないままに地獄巡りをしていた。

2回目の別府訪問では、多少別府という場所がわかってきたので1回目に見逃した地獄を訪れることにした。宿泊したのは明礬(みょうばん)温泉エリアにある別府温泉保養ランド。敷地内に有名な紺屋地獄(泥湯)がある。正直、宿としてはよほど肝が据わった人でないと宿泊しないほうがいい安宿なのだが、泥湯をとことん堪能するなら宿泊もありだと思う。まぁそれ以前に、泥湯自体がヒルのいない泥田に全裸で入るって感じの混浴温泉なので、万人には向いていない。

その宿から近い、明礬地獄へ来てみた。

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別府地獄組合の地獄が鉄輪温泉エリアに集まっていて公園や庭園的な風景なのに対して、ここ明礬地獄は明礬温泉エリアにあり、硫化水素を含む火山性ガスのため文字通り地獄って感じの風景が広がっている。

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明礬地獄は火山性ガスを利用して明礬を生産するための古い鉱山といってもいい場所で、3ヘクタールくらいの土地に製造設備が点在している。

土産物屋が何軒かあり駐車は無料。明礬製造設備の一部の見学も無料なのがうれしい。

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その土産物屋のひとつ岡本屋に車を置いて歩くことにした。岡本屋には地獄プリンというスイーツがありそれを食べるのもここにくる目的のひとつだったからだ。

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ここでは湯の花を造っているのだが、群馬の草津温泉の湯畑で造っている湯の花とは別のものだ。

草津の湯の花は温泉水を冷やし、溶解度を下げて、もともと湯に溶けている硫黄を固体化、沈殿させる仕組みだ。

それに対して明礬地獄の湯の花は、高温の硫酸ガスを鉱物の間に通すことで鉱物内のアルミニウムを分離して、明礬として再結晶させる化学プラントとも言えるものなのだ。

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この明礬の製造手法は江戸時代には確立していたもので、現在は国指定重要無形民俗文化財に指定されている。

明礬は薬品や染織の媒染剤として使われてきたようだ。

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少し歩いて、湯の里という土産物屋エリアに来た。

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このあたりには明礬の生産設備が密集していて、内部を見学できる。

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明礬は水溶性なので、雨で流れてしまわないように藁葺きの屋根が掛けられている。

なんだか竪穴式住居のような感じ。あるいは、山仕事の出作り小屋か。

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日本とは思えない風景。

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小屋は雨をよけるだけでなく、内部の温度や湿度を一定にして結晶化を促すという機能を持っている。

通常は密室なのだが、見学用に戸を開けてある小屋があった。

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仕組みを説明している模型があった。

最下層には栗石を並べた通気層がある。地中から噴出する火山性のガスをまんべんなく拡散させるための層だ。

その上にある青く見える土の層が鉄やアルミニウムを含んだ鉱物の層になる。火山性蒸気に含まれる硫黄が、大気に触れて硫酸に変化し、鉱物の層を通過するときに鉄とアルミニウムを溶かして、表面で明礬の結晶を生成するという仕組みだ。結晶は1日に1mmほど成長し、1ヶ月半~2ヶ月ごとに収穫できるという。

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これは敷石が見えているところだろうか。

原料となる鉱物の土は、成分が無くなると新しいものに交換する必要がある。

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湯の里の一番奥には坊ちゃん地獄というあまり知られていない小さな地獄がある。

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面積は1坪くらいか。

噴気孔の坊主地獄系の地獄だ。

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明礬地獄界隈を少しぶらついてみる。

明礬生成小屋は観光施設の中にあるだけでなく、道ばたや人家の庭みたいなところにも建っている。

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こんな風に公道のわきにも並んでいるので、見るだけなら入場料はいらないのだ。

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個人の家の敷地にもある。

個人で明礬を生産しても、漬物とか染め物くらいにしか使えないのでどうするのかな。業者が買い取るのか?

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地獄組合の地獄が濃厚な観光地だったのに対して、明礬地獄はどちらかというと民俗文化財的な場所で、風景的にもとても面白い。

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神伊泉、地域の共同浴場。観光客は利用できない。

湯の里内などにそれなりに野趣あふれる立ち寄り湯があるので明礬温泉のお湯を体験したければ、入れるお風呂はたくさんある。

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最後に明礬地獄という看板を揚げている施設に入ってみた。

入場料200円をとっている。別府地獄組合に加入していない地獄の一つだ。宿泊した紺屋地獄、湯の里の坊ちゃん地獄など、組合外の地獄や非観光の地獄はどのくらいあるのだろう。聞くところではかつては数十箇所の地獄があったというが。

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200円とっているけれど、ほかで見た無料の明礬小屋とあまり違いもない。

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でも、せっかく観光に来たので中に何かあるといけないから200円くらいなら払ってしまう絶妙な価格設定。

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噴気地で硫黄分が結晶になっていた。

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明礬小屋には排気用のパイプが取り付けてあった。ここにも硫黄分が付着。

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これは収穫が近い明礬結晶か。

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噴気地の中を木道で歩き回れるようになっていた。

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噴気はいたるところから出ていて、硫黄のにおいが辺りを満たしている。

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火山ガスで植物が生育できず、まさに地獄の風景。

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奥のほうに行くと、江戸時代の生成設備の跡地があった。

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敷地内の小さな足湯。

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明礬地獄と呼ばれる場所がどの範囲を指すのかははっきりしないが、「明礬地獄を見てきた」と言うにはこの有料施設に入場しておけば間違いはないだろう。

(2011年08月06日訪問)