定松座跡・八幡劇場跡

定松座は屋根のない劇場だった。

(徳島県阿波市市場町八幡町屋敷)

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市場町八幡(やわた)と聞いて、どんな町なのかすぐに思い浮かぶ人はよっぽどの旧道好きではないか。町は川北街道(県道12号線)の旧道にあるのだが、現在の県道から大きくそれてクネクネとカーブしているので、わざわざ旧道を通ろうという人はいない。

あえていえば、四国霊場の第10番切幡寺から、第11番藤井寺へ向かう遍路道が、村の中を通り抜けているので、お遍路をすれば通る場所、という感じの町だ。

ただし、「町」としてははっきりと認知できる連続した家並みがあるので、ここにも映画館のひとつくらいあったろうと訪ねてみた。

結論から言うと、この町には古くは定松座という芝居小屋があり、その後、八幡(やわた)劇場という映画館ができた。結構しぶとく聞き込みをしたのだが、場所を明確に教えてくれる人に出会えなかった。

劇場の場所は推定になるが、次の地図のとおり。

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定松座はかなり古い劇場だったようで、畑の中にあったという。こんな話を聞くことができた。

定松座(さだまつざ)ゆった。春子大夫(はるこだゆう)やよう来よった。もうないよ、春子大夫や知っとる人ないじゃろ? わたしゃ八十八やけんな、ほれがこまいときに観たんじゃけんな、もう知っと人がないわ。花道もあった。芝居小屋ゆうて、囲いしてな、しよったけん。」

「え、囲い?もしかして屋根なかったの?」

「うん屋根やなかった。ほなけんど、役者がおるところは屋根があったよ? ここの家の向こうらてにな、長屋があったんじゃ。そこに髪結いさんしよった人のご兄弟がな、春子大夫じゃった。ご兄弟がな髪結いさんしよった。」

また春子大夫! ホントよく聞く名前だ。そして、屋根のない壁だけの施設だったという劇場、見てみたかったな。

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いっぽう、八幡劇場はだいぶ年代が下ってから出来た映画館だった。藤井さんという人が経営していて、芝居も上演することもあったが、ほぼ映画だったという。

映画のフィルムは市場の映画館(阿波劇場市場座)と持ち回りだったようだ。

映画が始まる前にスピーカーから音楽を流すので、町中で上映時間がわかったという。

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町の中で見かけた古いたばこ屋。

敷地内にお堂がある。庚申塔かな。

➡場所

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町の西側には桝形のようなカーブがある。

たぶん旧八幡村の村役場などがこの一角にあったのだろう。

西向きに見ると、桝形の突き当りに時計台がある。

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辻時計として収録するほどではないけれど、一応写真は撮っておこう。

➡場所

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消防団の事務所、倉庫と火の見櫓があった。

➡場所

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阿波市市場方面隊第1分団ということなので、八幡村が中心的な町だったということがわかる。

(2008年04月20日訪問)