トンボゥ村の石灰乾燥小屋

石灰乾燥小屋の屋根を葺くインペアモウを作っていた。

(ミャンマーカレン州ラインブエ)

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パアンからラインブエへ向かう道の途中に、石灰工場があることは以前にも紹介した。

その中でも、パアン市街から20kmくらい行ったところのトンボゥ村の石灰工場は規模が大きく、街道からもよく見える。私がカレン州に来て初めて気付いた石灰工場だ。

この石灰工場には20基ほどの石灰窯(いしばいがま)と、8棟の巨大な石灰乾燥小屋がある。

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今回はこの石灰乾燥小屋と、屋根葺き材について紹介しようと思う。

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でもその前に従業員が石灰窯のほうにいるみたいなのでそちらに挨拶に。

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この日は雨が降っていたのだが、石灰石を焼いていた。

石灰石はこのフジツボみたいなレンガの山の中に積み上げてあって、薪の火力で焼かれているのだ。

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石灰窯は2階の構造になっていて、火を燃やす竃は地下にある。

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雨の中、半裸で薪を投げ込むおにいちゃん。

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一見、どうということはない風景だけど、じつはこのフジツボがすごい熱を放出している。

そのため、雨の中で傘を差さずに突っ立っていても、濡れる勢いよりも、熱で乾く勢いのほうが強く、またたくまに服が乾いていく。

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周囲にはおびただしい量の薪。

石灰製造には大量のバイオマスが必要なのだ。

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原料となる石灰石の中に、鍾乳石もころがっていた。

通訳が入らなかったのではっきりとしなかったけれど、鍾乳石(=二次生成物)を焼いた石灰は品質が悪くなるというようなことを言っていたようだった。

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これは空の石灰窯。

この中に石灰岩を積み上げ、地下の竃部分で火を燃やして、石灰石(炭酸カルシウム=CaCO₃)を生石灰(せいせっかい)(酸化カルシウム=CaO)へと熱分解する。

生石灰は乾燥剤などに使われている石灰だ。

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生石灰は反応性が強すぎるので、水に反応させ消石灰(しょうせっかい)(水酸化カルシウム=Ca(OH)₂)に変化させる。消石灰は漆喰や農業用の肥料になる。

これは試しに生石灰をバケツの中で反応させているところ。石の形をしていた生石灰は、この反応の過程で粉々に砕けて、私たちが知っている粉体の消石灰になる。

実際の反応は雨季の湿度で自然に行われるというようなことを聞いた。そのとき反応が終わった消石灰を乾燥し保管するのが石灰乾燥小屋だ。

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こちらが石灰乾燥小屋。(別の晴れの日に訪問)

切妻屋根の四方に下屋を出した屋根の建物。壁はなく、切妻の妻も開いているので通気はよい。

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中には石灰がうずたかく積まれていた。

とても大きな建物で迫力がある。

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これはたぶんまだ反応が終わっていない生石灰。

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こちらの消石灰はもう反応が終わっているので、触っても火傷するようなことはない。

まぁアルカリで手が荒れることはあるが。

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こちらは石灰の搬出が終わった小屋の内部の様子。

柱梁だけのプリミティブな建物で、屋根の素材が丸見え。

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保守用の屋根素材が置かれていた。

これはインペ(またはインパ)と呼ばれる葉を竹串で編んで作ったものでインペアモウという。

10枚で100円程度の安価な素材だが、この乾燥小屋を葺くのには3,000枚が必要になるという。しかも、耐久性はなく2~3年で葺き替えなくてはならない。

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屋根を長持させるには、短く並べて重なる部分を多くすればいいが、材料もたくさん必要になる。

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この石灰工場のとなりにインペアモウを作っている家があるというので見に行った。

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これは材料となる竹串と、竹紐。

竹を裂いた紐は、カレン州ではちょっとした結束に使われるため普通に販売されている。日本だったら、針金かカラータイで結束するようなものを竹で縛るのだ。以前、市場で花を買ったときにバナナの葉で包んで竹紐で結束してくれたことがあった。

これはたぶんそこらへんで採集してきたものだろう。

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これがインペの葉。

集めた葉は丁寧に重ねて、重しをして平らにしてある。

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この家の裏にあるインペの森。

自然に生えたものだというようなことを言っていたが、実質的には植林に近いものだと思う。

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おじさんが編むところを実演してくれることになった。

鉄鍋に入っている水は、たぶん葉を扱うときに濡らして畳みやすくするためだと思う。

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丁寧に編んでもらったのだと思うが、1枚を作るのに5分弱かかっていた。

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1時間で10枚以は作れそうだから時給100円といったところだ。2018年現在ミャンマーの最低賃金は約400円/日。実態としてカレン州あたりで単純労働ならば500円/日くらいなので、時給100円は「良くも悪くもない稼ぎ」というところだろう。

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完成したインペアモウはこのように圧縮して、さらに形を整えて出荷していく。

(2018年05月28日訪問)