前ページからのつづき。
アランタヤパゴダの敷地の東側には、タトン山脈という山並みが塀のように立ちふさがっている。
その山の尾根にも伽藍があり、白亜のパゴダが林立している。きょうは、その山の尾根まで登るつもりなのだ。
地図でいうと⑤、⑥、⑦、⑧の部分になる。
巨大パゴダを中心として東西に太い参道が伸びている。その参道の東端に登山口があるだろうと想定して行ってみた。(境内図⑤地点)
このエリアにも鞘塔が並んでいる。でももう感覚がマヒしていて、いちいち建物の内部を確認する気力は失われていた。
ただ、ちょっと変わった外観の仏殿があったので、ここだけは入っておこうか。
う~ん、中は普通だった。
また太陽と月のモチーフがある。
この仏殿に接合している他の建物、たぶん僧房だと思うが、そこのトイレが大胆。
さて、いよいよ山登りだ。
この仏殿の裏側から登れそうだ。標高は200mくらいはあるか・・・。
以前、ミャザベィパゴダに参詣したとき、この続きの山並みに登ったことがあるので、だいたいどのくらいの体力が必要かは見当がつく。
それにしても気持ち悪いくらいパゴダが並んでるな。
覚悟を決め、水分を取りながら一休みしていると・・・
ブブブブブブ・・・あれ? なんだか想定とは違う道から降りてくる二人乗りのオートバイがいる。この寺に来てから初めて見かけた一般参拝客だ。
呼び止めて訊ねてみると、山頂までオートバイで登れるとのこと。
ヤッターっ!!
登山路はかなり急で、ほとんどの区間をローギアかセカンドギアしか入れられない。
ひび割れだらけのコンクリ舗装だが、でも道があるのはありがたい。道幅からして自動車でも上れるだろう。
登山路の途中にも小さなお寺があるので気が抜けない。
だいぶ登ってきたな。
巨大パゴダから登山口まで続く中央参道にもたくさんのお堂が並んでいるのが見える。
これが田舎のさびれた寺なのだから、ちょっと現実とは思えない。
道は途中から舗装がなくなり、柔らかい砂地になる。
一瞬でも油断すると、タイヤを取られる。
後ろから参拝客と思われる人を載せたトラックが追い越していった。
ものすごい砂煙で、息を止めたくなる。
この寺にも少しは参拝客がいたんだと、少しほっとする。だが私とこのトラックの乗員を含めても、たぶんこの寺の敷地全体で、いま観光客は10人はいないだろう。
まだ山の上に建物があるが、どうやら乗物で上がれるのはここまでか・・・。
砂ぼこりが収まるまで、このへんのパゴダを散策するか。(境内図⑥地点)
トラックが走り去ると、すぐに静寂が戻った。
ハーシーズのKISSチョコみたいなパゴダが不規則に並んでいるのがおもしろい風景。
パゴダは小さいものは高さ5mくらい。
ほとんどが潅木の中に建っていて、すべてに参詣することはできそうになかった。
かろうじて基壇まで登れるパゴダにも階段などはなく、薮漕ぎしてたどり着くという状態。
これらは点景として建てられているもので、ひとつひとつ巡拝するようなものではないのだ。
タトン山脈の北の尾根を目で追っていくと、3~4km先に小高い峰があり、そこにもパゴダがあるようだ。
あそこまで行けるかな?
尾根道があったので、北の峰を目指す。
道は相変わらず柔らかな砂で、見た目からは想像できない走りにくさ。ちょっと油断するとすぐコースアウトしてしまいそうで怖い。
しばらく走ったところに、小さな僧房があって行き止まりになっていた。(境内図⑦地点)
細い道はあるが、アリ地獄みたいな砂地で、徒歩でなければ進めそうにない。
ここまでで引き返すことにした。
さきほどトラックをやり過ごした場所まで戻ってみたら、トラックの観光客たちはもう下山していた。
ふと見ると、頂上へ登る道があるのに気付いた。回り込むようになっていて見えなかったのだ。
よし! 登るか!
この道はたぶん四輪車は無理だろう。
とんでもない急斜面だが、ローギア、フルスロットルでなんとか登っていく。
この道からはタトン山脈の南峰が見渡せる。
山頂部へ到着。(境内図⑧地点)
パゴダやお堂が並んでいるが人の気配はまったくない。この無数の堂塔を造るのに多くの人々が気の遠くなるような労力を費やしたことだろう。にもかかわらず、この壮大な貢ぎ物は誰にひけらかすでもなく静かに仏陀に捧げられている。
そしていま山頂で、私ひとりだけが、その偉業を目にしているのだ。
この山頂からの眺めを独り占め。
地平線が高い。
ミャンマーのお寺は、規模のわりに参拝者が少ないと感じることが多い。
だがこの寺は、それが度を越している気がする。
下写真は山頂からのパノラマ。
(2015年11月28日訪問)
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