「サイフォン」とは、液体を移動させるとき、空気の入っていないチューブを使って、移動元の水面よりも高い場所を通過させる手法をいう。ポンプを使って水を押し上げなくても自然の力で水がいったん高いところを通るところがちょっと不思議な感じがする。金魚の水槽から水を抜いたり、灯油を入れたりするときに体験するので誰でもどういうものかは知っているだろう。
そのサイフォンと逆の仕組みに「逆サイフォン」というものがある。液体を移動させるときに、いったん移動先の水面より低い場所を通すが、やはりポンプなどの動力を使わず自動的に湧き上がらせるものである。先に紹介した円筒分水もサイフォンの一種だ。「逆サイフォン」は用水路を河川と交差させる場所や、あるいは用水の高い水位を保ったまま道路を通過させる場所にも作られる。
私はちょっと前からサイフォンって面白いな、と思って見かけたらなるべく写真を撮るようにしていた。ダムや円筒分水のファンサイトはあるけれど、サイフォンのファンサイトというのはたぶんまだ存在していないと思う。というか、行政等が積極的に看板などをつけて“おぜん立て"してある場所以外で、サイフォンをありがたがって観察する人がどれだけいるのかも疑問だ。
だが、気になり出せばなかなか看過できない物件だと思う。今回の物件は本サイトで初出になるので、扱いについて決めておこうと思う。まず、本サイトでは「サイフォン」と「逆サイフォン」は特に区別せず単に「サイフォン」と記述する。また、サイフォンの原理で動作するものであっても、「ダム・発電所」、「円筒分水」、「水道橋」、「噴水」はサイフォンのカテゴリに分類はしない。本サイトの「サイフォン」は、主として用水路が河川や道路を横断させる場所を扱うつもりである。
さて、前橋市の関根町には、関根町発電所の取水池から引いている用水が流れている。先に紹介したとおり、その取水池は周辺の地面よりも水面が高い。当然、そこから引いた用水も地面より高い場所を通過している。そうしなければ用水路から水があふれ出てしまうし、また高い位置をキープすることで、自然堤防上にあるやや土地が高い集落に水を送ることができるからであろう。
その用水が道路の下に引き込まれる部分がこれ。
右側から流れてきた川が、垂直に地面の下にもぐりこんでゆく。
周囲に柵などがなく、吸い込み穴を間近に自由に観察できるのは高く評価できる。
ここは湧き出し口。
水面までの高さは1.5mくらいはあるだろうか。
湧き出した用水は、群馬大学の敷地の北の壁の役割も果たしていて、川原町方面へと続いている。
そういえば、かつて養蚕農家が並んでいた川原町の中心の道には用水路が流れ、洗い場が並んでいたが、その用水はここから来たものなのかもしれない。
現在は、すべて暗きょになっているので地図で確認することはできない。
湧き出し口側にもよじ登ってみた。
サイトで最初に紹介するサイフォンとしては、わかりやすい良い物件になった。
この用水にはほかにも数箇所のサイフォンがある。
ここは歩行者が用水を通り抜けるための小さな通路。
ここは、公園の入口の部分のサイフォン。
通路の途中で、一部、水がにじみ出していた。逆サイホンでは、埋設部分には水圧がかかるので、水管部分にヒビでも入れば、水圧で水が噴き出すはずだ。
水漏れでそうしたサイフォンの仕組みを理解できる面白い場所といえるかも知れない。
(2013年01月27日訪問)
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竹尾 敬三 (著)
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