金剛寺

杉山の中に小さな不動堂が一宇。無住の寺。

(群馬県吉岡町南下)

榛名山は穏やかで女性的な山容を持つが、実は伊香保温泉などを擁する活火山である。最後に噴火したのはわずか約 1,500 年前。そのすそ野は火山灰土からなる肥沃な土地で、おそらく古くから農耕が行われていたのであろう。すそ野には山頂方向に向かう放射状の道が発達していて、どの道を登っても山腹まで到達することができる。山麓の長松寺から山腹の柳沢寺へ向かう道も、等高線に直交するような経路を最短距離を移動できる。

その道を登ってゆくと道の左右所々にこんもりとした森が目に付く。榛名山麓は古墳の多い地域なので一瞬「古墳か?」と思わせるのだが、盛り上がって見える土地はたいていは山の法面であり、少し登って上から見ると頂上はただの畑地だったりする場合が多い。このような丘は、火山のすそ野に泥流などによって形成される地形で「流れ山」という。

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金剛寺のある森もまさに遠目には古墳でもあるのかと思われるような流れ山であった。寺は杉林に囲まれていて境内はよく見えない。もっとも、群馬県内にまだ行ったことのない大寺があるというのは考えられないので、ちょっとした風情でもあればよしとしなければならないだろう。

もともとあまり期待していなかったのだが、長松寺から柳沢寺へ向かう道はいままで通ったことがなかったことと、地図で寺の参道の様子を見ると“そこそこな"寺がありそうだったので、立ち寄ることにしたのである。

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だが予想通り(?)、金剛寺は小さな寺であった。

いや、寺というより単なる堂といったほうが適当かも知れない。敷地の造成をみると以前は本堂と庫裏はあったのだろうと思われるが、今は左写真の堂一宇がぽつんと建っているだけ。かつての堂塔があった場所は杉林になっていた。

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堂正面の指し鴨居にはトタン板の宝剣と鳥居が奉納されてあった。

祀られているのは不動明王であろう。毎月28日14時より護摩供養を行なうという張り紙があった。無住の寺だが、境内の清掃などはされているので、近在の人々が守り継いでいるのだろうか。

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不動堂の裏手には薮に埋もれるように石祠があった。かなり立派なものである。往時の金剛寺の規模が偲ばれる。

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他に境内には宝篋印塔(ほうきょういんとう)があった。

相輪の上部が欠けているのが惜しまれるが、全体的には形の整った立派な宝篋印塔だ。特に屋根部分の四隅にある突起(隅飾り)が、力強く堂々としている様が鑑賞に値するポイントであろう。このように突起の立派な宝篋印塔は時代の古いものが多いとされる。

この塔の創建ははっきりしないが案内板によると町教委は室町初期と見ているようである。

(2002年03月09日訪問)