東京都の西部には、府中、国立、国分寺といった住宅地が広がっていて、武蔵野台地という台地になっている。そこを横断する多摩川とその支流の崖線にはまだ昔ながらの自然が残っている場所がある。
そのなかで、私にとってのイチオシの場所が国立市南部の「ママ下」である。ケヤキなどの落葉樹が並んでいるところが“ママ下"の崖線である。
私がこの崖線を推す理由は簡単だ。それは公園化されていないこと。
ここでは戦後~高度成長期以来ほとんど変わっていない武蔵野の崖線の風景が残っている。しかもここでは子供たちが虫や魚を捕ったり、泥遊びをしたり、自由に遊ぶことができる。公園とか保全地区になってしまうとこうはいかない。
さて、この段丘は地理上は「青柳段丘」と呼ばれる場所なのだそうだ。ところがこの地方では崖のことを「ママ」と呼ぶことから、この湧水を「ママ下湧水」と言うのだそうだ。そういえば国分寺のほうでは崖のことを「ハケ」と言ったりしている。東京にもいろいろな言葉があるのもだ。
写真は段丘の上の畑の中へ続いている坂道。後で述べるが、この風景が見られるのもあとわずかだ。
このママ下で圧巻なのは、湧き出した水が集まって作っている小川である。この小川は農業用水に合流する500m程の長さの川なのだが、合流点まで一滴の生活排水も、農業用水も流れ込まないため、人間活動の影響をまったく受けていない小川なのである。
多摩川の中流域で、これほどの川が公園にもならず、あるがままの姿で残されている場所は他にないのではないか。
川面をのぞき込むと水草のあいだに小魚が泳いでいるのを発見できる。まさか、メダカではあるまいが、それでもメダカが生きていてもおかしくないと思えるほど豊かな川なのだ。
川の途中には何箇所か湧水がある。
比較的水量の多い湧水のひとつで遊ぶ子供たち。柵もないし、自由に川に入って遊ぶことができる。
ここに来ていつも思うのは、東京の子供たちだって遊び場さえあれば自然を相手に遊ぶことができるのだということ。
ところが、ひとつ残念なことがある。写真で右手に見える土盛りである。国立市は今この崖線を潰して道路を建設しようとしている。おそらく日野方面へつながる新橋への取り付け道路となるのだろう。
うまくすれば静岡の柿田川のように、道路工事にまったく影響されず、川は残されるかもしれない。だが、今度ここを訪れるときに、この自然がそのまま残されているという保証は少ないと言えるだろう。
とにかくなくなってしまう前に、この風景を目に焼き付けておくことだ。
(2001年03月10日訪問)
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