半田町蔭名のタバコ農家

半田町を見下ろす棚田地帯にあるタバコ畑。

(徳島県つるぎ町半田蔭名)

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半田町は、半田川が吉野川にそそぐ地点に発達した渓口集落。

そこから半田川を分け入ると、すぐに険しい山になり、私が最初に訪れたタバコ農家西原家もこの上流にある。

そのときご主人が「カゲにもタバコ農家がある」と言っていたのが、半田町蔭名(かげみょう)という字だ。

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半田の町から西方向へ県道257号線へ入り、於安パークを過ぎてひたすら山奥へ入っていく。

目的の阿波葉農家はそこから南の斜面、標高430mの場所にある。

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標高が高い場所だが、地滑り地形で傾斜は緩く、集落にはたくさんの農家が見える。

稲架掛けをしている銀色の屋根のお宅が、これから紹介する栗尾家だ。

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栗尾家のタバコ畑は棚田の中にあって、そこからは半田町や美馬町の市街地が遠望できる。すばらしい景観の場所だ。

初めて訪れたのは2008年7月6日、それから4回くらい訪ねている。

栗尾家のタバコ畑は25アール。これをご主人と奥さまだけで管理している。以前、「高齢の夫婦2人で阿波葉を作ったら15アールくらいが順当で20アール作るには天候がよくないと大変」という話を聞いたが、こちらは2人で25アールである。

ただ、もう70歳を超えたので2人で25アールは簡単ではない。ご主人によれば阿波葉は1人あたり10アール以上やったらしんどいという。若いころは10アール以上できたが、そのころは売上げもよかった。

一番大きくやったときは60アールの阿波葉を育てた。そのときは夫婦と両親、曽祖母の合計5人で、曽祖母は葉の編み込みを手伝ったそうだ。とても忙しかったという。

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同じ作物でも、たとえば阿波葉を収穫した後には10アールほどの蕎麦を作るが、蕎麦ならば1人10アール収穫するのも苦ではないそうだ。

「タバコは1枚1枚だから」

収穫後にも発酵させたり乾燥させたり気が抜けない。それを収穫と並行して管理しなければならないのだ。

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タバコの下の段は棚田になっている。

すっごく狭い田んぼで、稲の植え方が長手に対して直角になっている。手植えをしている証拠だ。

でも畑も棚田も丁寧に耕作されていて、勤勉なお宅なのだとわかる。

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2008年は天候も順調で、タバコの作柄は上々。

中葉をパイプハウス内で黄変させているところ。

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奥のほうはだいぶ色が付いてきている。

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栗尾家は主屋と納屋が向かい合っていて、その間がニワになっている。この場所が干し場になるのだが、このときはまだ収穫量が少ないので、畑に近いパイプハウスで連干ししていた。

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主屋は寄棟の草屋根に大蓋(おぶた)を出した、いわゆる四方蓋(しほうぶた)造り。東向きで右勝手。

主屋の裏側に隠居屋がある。

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主屋と向かい合った納屋。こちらも大きく庇を出していて作業性はよさそう。

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主屋の右前にも小さな2階建ての納屋がる。

この1階は元々は牛小屋だったと思われる。2階は窓も付いているので、子どもや兄弟などが別居する部屋に使われたのかもしれない。

現在はタバコの調理(出荷前の選別)に使っている。

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畑で使うリヤカー付きのテイラー。これ使ってる農家ってプロって感じでかっこいいよね。

手前にある木馬(きんま)にタイヤを付けたみたいな大八車も興味深い。

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納屋の1階にはカヤが保管されていた。

元は牛小屋だっただろう。

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ニワの谷側には稲架があって、カヤが立ててあった。

タバコに風が当たりすぎるのを防ぐためかと思って訊いてみると、冬に冷たい北風が吹き上げてくるのを除けるためだという。

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このほか、納屋の後ろにハウス式乾燥室がある。

かつてはこの場所に土蔵の蒸屋(むっしゃ)があったが、ハウスを造るときに取り壊したのだそうだ。

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ハウスの中。

床と天井にダクトがある。

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温風機は室内に設置されている。

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床のダクトを組み立てるとこんなふうになる。

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ダクトの端にはアンカー(自作?)が付いていた。

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天井のダクトは吸気なのかな。

この場所の上に気抜き櫓があるが、あまり換気能力は高くなさそう。

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2008年7月26日。

前回から20日後。もうだいぶ収穫が進んでいて上葉しか残っていない。

なお、JTの規格では「上葉(うわは)」と呼んでいるが、徳島の阿波葉農家は以前の名前である「天葉(てんば)」をいまでも使っている。

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こうして見ても病気が見当たらなく、軸が青々としている。

収穫が早いためかもしれないが、栗尾家の畑ではあまり空洞病は出ないという。

たまたま土壌と気候がいいのかもしれないが、芯止めや芽掻きなどの段取りが上手という可能性もある。株を傷つけるような作業をしたあとすぐに雨に当たると病気が発生しやすいからだ。

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主屋と納屋の両側からビニールの屋根を出して、その下で葉の乾燥を進めていた。

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綺麗な褐色に仕上がっている。

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まだ色が付いていない葉は、乾きすぎないように編み垂れ(あみたれ)を掛けていた。

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垂れの造りは、これまで見た農家ですべて違っているので、市販品ではなく自作なのだろうか。

綺麗にできているので、もしかしたらムシロ編み機みたいな専用治具でもあるのかな。

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牛小屋の2階にも葉が吊ってある。

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崖から橋が掛けてあって、直接2階へ入れるようになっている。

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ここは乾燥が終りつつある葉が入れられているのだろう。

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2009年8月19日。

お盆前にすべての葉の収穫が終った。

今年は8月9~10日に台風が通過し、雨が多かったが、特に被害は出なかったという。

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家のすべての施設がタバコでいっぱいになる。

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間伐材と竹で器用に作った自作のビニールハウス。

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2009年9月5日。収穫も一段落したときに訪問した。

ご主人に猟の話を聞くためだ。ご主人は狩猟免許を持っていて、冬になると毎日のように山に入るという。もし私が徳島に長く住んだなら、ご主人に弟子入りして猟を教わっただろうと思う。

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タバコの葉もさらに色を深めていた。

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一番綺麗に出来たところを見せてもらった。

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栗尾家の阿波葉最後の年は作柄もよく、25アールを夫婦2人でやり切って、満足な年になったろうと思う。

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2009年10月31日。

すっかり秋も深まり、タバコの後に植えた秋ソバに花が咲いた頃、栗尾家を訪れた。

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ハウスの中の連縄はすべて片付けられ、葉はコモに包まれて積まれていた。

このハウスの中の葉がこんなにコンパクトになるんだ・・・。

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葉は菰で巻いてから、ビニールが掛けてあった。

湿気が戻るのを防ぐためか。

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牛小屋の2階は調理に使っているというのでその部屋も見せてもらう。

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ここも連縄がなくなり、綺麗に片づいている。

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葉を部位ごと、ランクごとにわけて積むのだろう。

栗尾さんはとにかく几帳面というか、仕事が丁寧だな。葉を積んであるだけなのにこの美しさ。

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来月には専用資材のシートに包んで出荷する。それをタバコ業界では「収納」と言っている。

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出荷時に圧縮して梱包するための専用機械。

「小松式 葉たばこ梱包機」と銘がある。

これ、元山家で見たのとハンドルの取付けが左右逆だ。2種類の組立てができるのだろう。

(2008年07月06日訪問)