加茂山の蒸屋

急傾斜の畑はいまもきれいに耕作されている。

(徳島県東みよし町西庄加茂山)

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東みよし町大字西庄小字加茂山。

加茂谷のソラの集落のひとつで、戸数も少なく行き止りの場所だ。

でもこの集落の行き止りには、丹田古墳という積石塚の前方後方墳があるため、歴史好きの人はけっこうこの集落に行っているのではないか。

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この集落には現在3戸の農家があり、いまも農業が営まれていて、畑には作物が並んでいる。それも自家消費の作物ではなく出荷を前提した規模の作付けだ。

でもこの傾斜を見てほしい。段畑ではなく、圃場自体が傾斜しているのである。農作業中につまずいたら道まで転がり落ちそう。

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この集落が圃場を段畑にせず、傾斜のまま耕作しているのは石垣のための石材が確保できなかったからではないか。

吉野川の南側は三波川帯の地質で結晶片岩の山が多く、加茂谷全体でも片岩の石垣が多く見られる。積石塚である丹田古墳もそうした石で築かれているが、この集落の土壌は赤土で、片岩は見当たらない。古墳の「丹田」という名前も、この赤い土壌からついた名前だろう。

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きょうは総出でタマネギを収穫していた。

出荷にはモノラックが使われているが、この傾斜では乗用トラクターは使えないだろうし、人力に頼るところが大きいのではないかと思う。

にもかかわらず、圃場はとてもきれいに整備されていて目を見張ってしまう。

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さて、その集落の一角にタバコの乾燥室と思われる土蔵を見かけた。

排気を重視した黄色種のベーハ小屋と異なり、気抜きが控えめだ。在来種タバコ用の乾燥室ではないかと思う。

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黄色種タバコは葉を高温・短期間で乾燥させるが、在来種は時間をかけて発酵させながら乾燥させていく。

こうした小屋を「蒸屋(むっしゃ)」というと聞いたが、語感からしても乾燥とは違う意識が感じられる。

こうした乾燥室のことを「ベーハ小屋」と呼ぶのはふさわしくないが、「乾燥室」では広義すぎるので、「蒸屋」と呼ぶことにしよう。

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この家の写真左側にある下見板壁の建物も蒸屋であろうと思う。

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この波板張りの土蔵もたぶん蒸屋。

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現在は野菜が主に生産されているが、かつてここでは在来種タバコが作られていたのだろう。

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丹田古墳の墳丘上からは、加茂谷の対岸のソラの集落が展望できる。

よく見れば、その集落の中にも点々と蒸屋が見つけられる。

ただ、現時点(2004年)で、加茂谷には葉タバコ農家は1軒も残っていない。

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(2004年05月29日訪問)