麻生の石風呂

以前は周囲にセキショウが群生していたという。

(大分県豊後大野市緒方町軸丸)

普光寺磨崖仏から県道46号線で緒方町の市街地へ向かう途中に、軸丸という字がある。きのう見た円筒分水のある音無井路の水が最終的に送られてくる棚田地帯だ。

この地域にも石風呂があるというので、何軒かの農家で聞き込みをしたところ、「吉良(きら)のおじいちゃんに聞けばわかる」という情報が得られた。村外れで吉良のおじいちゃんの家を見つけ出し、案内してもらえることになった。ガイドがいなければたどりつけない場所なのだ。

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石風呂の詳細な位置はページ右上の地図をクリックしていただくとしても、GoogleMapsでは細い農道は表示されないし、衛星写真は森の中で道を見分けることもできない。

たどり着くには写真のカーブミラーの枝道を下ってゆけばよい。途中までは小型自動車なら車で行ける。

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道は田んぼ1枚の幅の細い谷で、現在も田んぼが耕作されている。車で行けるところまで行ったら、その先は徒歩で、田んぼあぜ道を大野川に向けてひたすら下っていく。

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一番下の田んぼの手前のあぜ道を右に歩くと、石風呂がある。

名前は「麻生の石風呂」という。麻生というのはこの棚田がある場所の名前で人家はない。

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石風呂は地域で使われていたものではなく、この谷の棚田を開墾したときに発見されたものなのだという。

最初は肥つぼかと思ったが、掘ってみると石風呂だとわかったのだそうだ。そういう経緯だから当然、軸丸の村人がこの石風呂を使ったという話はない。

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ただ、おじいちゃんが子どものころよく大野川にシジミ捕りに来ていて、そのころはこのあたりには石菖(セキショウ)が繁茂していたという。石菖とは、水辺などに生える菖蒲の仲間で、薬効があるため石風呂の中に敷いて使う。この石風呂が村の中ではなく、大野川の川辺に近い場所にあるのは石菖の群生地だったことが理由なのだ。

そういわれてみると、ここまで見てきた石風呂の多くが人家ではなく、水辺に近い場所にある。

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内部は丸くくりぬかれていて、狭い。

たぶん3~4人入れば一杯だろう。

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内部にコケやシダ、イワニガナ(?)などの草が繁茂していた。

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奥に見える川が大野川。石風呂はほぼ川に近い場所に作られている。

この棚田が耕作されているあいだは、石風呂も草刈りされて容易にたどり着くことができるだろう。

(2012年03月25日訪問)