大洲の養蚕農家

愛媛の養蚕の中核の大規模農家。

(愛媛県大洲市多田甲)

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辻堂から少し行ったところに大きな養鶏場のような建物が並んでいる場所があった。

そこが瀧本さんという養蚕農家だった。

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240㎡ほどはあろうかという軽量鉄骨の飼育棟が6棟並んでいる。これ全部が養蚕の施設なのだろうか。すごく大規模な養蚕農家だ。

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ご主人がいらしたので、少し話を聞くことができた。

晩秋蚕の飼育が終わったところで、まだ片付けをしているところだった。

この晩秋蚕期は提携グループ向けの普通品種の出荷が6.5箱+蚕種会社からの依託で種蚕(たねがいこ)1箱を飼育したという。

稚蚕飼育は蚕種会社が行っていて、2眠配蚕。この地方の1箱は2.5万頭なので、蚕の頭数にすると1蚕期18万頭強、かなりの規模だ。

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何人の作業者がいるのか聞いたら、ご主人と奥さんの2人で上蔟(じょうぞく)(繭を作らせる作業)までをしているという。今年は春蚕8箱、夏蚕5箱、初秋蚕3箱を育てた。

聞き間違いだったかもしれないが、高齢のご夫婦で1蚕期18万頭の飼育なんてできるんだろうか・・・1人あたり9万頭・・・かなり大変な量だと思うのだ。

瀧本さんは全盛期には年間6トンの繭を出荷し、1蚕期で23箱ほどを育てていベテランだから可能なのかもしれない。

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現在の施設は、昭和54~55年に構造改革事業で半額の補助が出て整備したという。

昭和60~平成元年ごろには年間8~9回の飼育をしていた。上蔟が11月になる初冬蚕という蚕期も育てたこともある。当然、寒い季節なので暖房をしながらになるが、その当時は燃料代にも補助が出た。

現在、この施設は瀧本さんの兄弟2軒の農家が使用している。大洲市全体で養蚕農家は4軒しか残っていないが、大きくやっているのは瀧本兄弟の2軒だそうだ。

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瀧本さんの蚕室は機械化された循環式蚕座などではなく、平飼いの飼育台だ。

ただし蚕室のレイアウトは非常に導線がよく、私がこれまでに見た全ての養蚕農家の中で一番使い勝手がいい蚕室だと思う。

敷地全体に高低差がないし、蚕室と上蔟室が向かい合いでバリアフリー。中央の通路には屋根が掛かっていてすごく仕事がしやすそう。

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飼育のポイントは、枝を川の字に入れていくこと。廃条の片付けは面倒だが、給桑のスピードアップにつながるので大規模にやろうとすると川の字に入れるのが適している。

除沙(じょさ)(蚕座の掃除)は4齢→5齢のときだけで、5齢期には除沙をしない。

また、通常より厚く飼うことで、蚕座に食べ残しの葉が残らないようにして、桑の無駄をなくすのがコツだという。

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蚕室は全体がコンクリの床になっていて、飼育台の柱は床の穴に差して立てるタイプ。かつ給桑台のレールもあるため給桑はしやすい。

廃条を片付けるときに飼育台の柱を抜いて分解できるため、トラクターのフロントローダー等で廃条を押し出すことができる。

川の字に給桑すると廃条の運び出しが厄介だが、機械を使うことで迅速に片付けられるのだ。

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一番気になるのは、一人当たり9万頭の上蔟をどうやってこなすかだ。

上蔟には3日かけるという。起蚕の桑づけをずらすなどして、蚕の経過に差をつけていく。5列の飼育台のうち壁際の列は気温が低いので経過が遅れがちになるので2日目以降に上蔟する。

初日の上蔟量が一番多くなる。

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上蔟の日は蚕座から枝ごと蚕をどけて、蚕がいなくなった蚕座に蚕座紙を敷いて条払いする。払い落とした蚕の糞や食べカスの葉などは取り除かない。その蚕の上に繭を作らせるための(まぶし)を載せるという。

少し「自然上蔟」という手法に似ている。ただし、自然上蔟に適したX型の蔟ではなく十字型の蔟を使用していた。

多くの養蚕農家がやるように上蔟室に蔟を配置し、蚕を運搬していたのでは仕事が間に合わないのだという。

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蚕座の上で蔟に蚕を上らせ、あらかたの蚕が蔟に移ったら蔟を上蔟室に移動して吊るす。上蔟で一番時間をとられるのは条払いと蔟への振り込みなので、その時の歩行時間を節約しているのだ。蔟を吊るのはたぶん、日をずらしているのだろう。

このネコ車が蔟運搬用の道具かな。3枠くらいは積めそう。

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徳島の養蚕が消滅した原因のひとつに、補助金制度の変更があった。農家は呉服屋やメーカーをリーダーとした提携グループに所属して、そのグループ単位で補助金を利用するという仕組みになった。それを期に、農協が養蚕の終了を決めてしまった。

愛媛の養蚕農家は新しい制度にうまく切り替えたのだ。提携グループ制度が始まる以前には繭価は普通品種で1,700~1,800円/kg、初秋蚕などの気候が悪いときは1,500円/kg程度だったが、新制度のもとで買い上げ価格が上がり、やりがいがあるという。

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桑園は現在1ヘクタールほどあり、蚕室から少し離れた山の上にある。

肱川の氾濫などの被害を受けにくいようパイロット事業で山頂を開墾して造られたものだそうだ。

あ、そういえば桑の収穫については聞きわすれた・・・機械使ってるのかな。

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まさに桑の海!

徳島でもここと同じような大規模養蚕のパイロット事業があったが、持続できずに解散してしまっている。

愛媛では瀧本さん兄弟がまだその技術を守り、大規模な養蚕を続けているのは頼もしいかぎりだ。

見学させてくださってありがとうございました。

(2011年10月08日訪問)