きょうは愛媛県の養蚕関係の施設を巡るため、大洲市まで来ている。私の住む徳島市からは高速道路を使っても3時間以上かかり、同じ四国といっても決して近い場所ではない。
最初に訪れたのは大洲市内にある稚蚕飼育所。これまで群馬県の稚蚕飼育所を180ヶ所ほど紹介してきたが、群馬県以外の飼育所を紹介するのは初めてだ。
たぶんもう稼働していないと思うが、敷地内はほどほどには手入れされていて廃虚感はない。
名前は「大洲市農業協同組合 㐧一稚蚕共同飼育所」。
稚蚕飼育所は、地域の字単位で運営するものと、農協が運営するものがあるが、これは農協がやっているので、配蚕する範囲は広く、大洲市全体をカバーできたのではないか。
建物は4つあり、写真左が軽量鉄骨の飼育棟。写真右が木造モルタルでたぶん事務棟。そして、写真では見えていないけれど、事務棟の裏側に宿泊室。その奥に倉庫がある。
建物配置が群馬県の飼育所のパターンと違っていてわかりにくいので、GoogleMapsの地図で見てみる。(赤色部分は加筆)
蚕の受け取りは県道側から車で入って、飼育棟を一廻りして、図の配蚕口の場所で受け取ったのではないかと思う。こうしたドライブスルーみたいな導線にすることで、軽トラが行列になって待機できるからだ。
看板を見ると「昭和58年度 人工飼料育用改設」とあるので、もともとは桑養育の飼育所だったのが、途中から人工飼料育に切り替わったようだ。
飼育棟の正面には左側に従業員用の入口、右側に「冷蔵庫」と書かれたドアがある。
人工飼料はこの右側のドアから運び込まれていたのだろう。
飼育棟と宿直室の間には地下へ下りる階段がある。桑養育時代には涼しい地下室に収穫した葉を収蔵していたのだろう。
階段の横には「給餌機洗場」というドアがあった。
中はまったく見えないので、よくわからないが、なぜ洗浄場が外部のドアを持っているのだろうか。
群馬県の飼育所では内部はクリーンルームなので、洗浄も室内で完結していた。
飼育棟の正面のドアは作業者の出入口と飼料の搬入口の狭いドアしかなく、配蚕は裏側にある凸型に突き出した棟で行われたと思われる。
この突き出した部分に蚕を入れたコンテナが地域ごとに積み上げられ、取りに来た軽トラに順次受け渡されていたのだろう。
配蚕棟は窓があり、中が見えた。
中にはサンピー蚕箔と呼ばれる鉄製の蚕箔がたくさん積み上げられていた。
群馬県の人工飼料育では工場のラインのような循環式の蚕座を使っているが、そのためには連結した特別な蚕箔が必要になる。
このようにサンピー蚕箔を大量に使っていたということは、ここは大部屋式の棚飼いの飼育所だったのだろう。
建物の裏手には大型の洗浄槽がある。
これは、サンピー蚕箔を消毒するのに使ったものだと思う。
飼育棟の裏側からみたところ。
煙突と冷房用の冷却塔がある。暖房だけでなく冷房も完備して通年で適温の管理ができたのだ。
飼育棟の後ろには格納庫と思われる建物がある。
桑養育時代の農機具などがしまってあるのではないだろうか。飼育所の周辺には桑畑は見当たらなかったが、南側に広い空き地があるので、そこが稚蚕用桑園だったのかもしれない。
なお、この場所で偶然にも大洲市内の現役の養蚕農家の場所を教えてもらえた。これから行ってみよう。
2022年現在、すでにこの建物は無くなってクリニックが建っている。
(2011年10月08日訪問)