島村の養蚕農家

立派な総二階養蚕農家が多い。

(群馬県伊勢崎市境島村)

田島弥平旧宅の周辺は立派な養蚕農家が多く、集落内を散策できるように案内が出ている。

①~⑦の順番で島村の養蚕農家を見ていこう。

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① まず、出発点となる田島弥平宅。

屋号は東山近水村舎・桑拓園。主屋は文久3年(1863)の建築で、間口13間×奥行き5間の規模。

衛星写真を見るとわかるが、弥平宅は他の家と異なり、主屋が南東を向いている。『養蚕新論』では、蚕室について「その屋を南面にし高楼を作り」と書いているので矛盾している。本来は南面したかったのに、何らかの理由でできなかったことが考えられる。

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総二階切妻造りの養蚕農家は、間口9~11間が多いが、間口13間はひと回り大きく、北関東の養蚕家屋としては最大級のものだ。

屋根の上の気抜きは、大棟の全体に及んでいて、こうした連続的な越し屋根を「総櫓(そうやぐら)」という。

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② 田島弥平宅のすぐ南隣りにある、田島武平宅。

屋号は桑麻館。主屋は文久3年(1863)の建築で、間口11.5間×奥行き5間の規模。

武平家は渋沢栄一と親戚の関係だった。栄一の指導で、欧州に蚕種を販売する「島村勧業会社」を設立すると、その社長になった人物で、欧州にも直接営業に行っている。明治初期の蚕業史上で重要な人物だ。

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現在の主屋を見ると2階にバルコニーと手すりがない。元々の造りがそうだったのか、改修でなくなったのかはわからないが、バルコニーのない総二階養蚕農家というのは存在する。滑車で2階に荷物を上げ下ろしするのにそのほうが便利な場合も考えられる。

右側の建物は建て増しだろう。本来の主屋で養蚕を複数蚕期やるようになると、主屋で生活するのが大変になり、人間が主屋から出て建て増し部分で暮すようになる。

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③ 武平宅の西隣り、田島乙三郎宅。

屋号は進水館。建築年代は確定していないが、幕末と考えられている。間口13間×奥行き5間の規模。

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この主屋は入母屋造りなのが特徴。

総二階養蚕農家はほとんどが切妻造りだ。入母屋造りや寄棟造りの総二階農家を見ると、それだけでかなり目を引く。

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非常に立派な建物。気抜きは総櫓。

入母屋の養蚕農家が多いのが、実は島村の特徴ではないかと思う。

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乙三郎宅は島村の入母屋農家の中では最も立派なものだ。

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④ 乙三郎宅の左隣りの家。

案内板がなかった。田島善平旧宅かな。

切妻造りで気抜きが2つ。このような気抜きを「二つ櫓」と呼ぶ。

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⑤ 田島定吉宅。

屋号は栄盛館。

主屋は文久元年(1861)年築。規模は間口9間×奥行き5間。

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屋根は三つ櫓、切妻造り。

2階の壁に開口部を塞いだような跡がある。

以前はここに階段かリフトでもあったのかもしれない。

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蔵は基壇が高く積んである。

水害対策と思われる。

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⑥ 田島平内宅。

屋号は有鄰館。明治元年(1868)築。規模は間口12間×奥行き5間。

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薬医門をもち、その横に2つ櫓の独立した蚕室がある。

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主屋は三つ櫓、切妻造り。

やはり2階にバルコニーがない造り。

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主屋を裏側から見たところ。

中央部に大きな下屋が出ていて、水周りになっているようだが、ここは養蚕をやらなくなってからの後補ではないか。下屋の屋根が2階に達していると、北側の開口部が少なくなり、上蔟時の通気が悪くなるので当初からこのような構造だったとは考えにくい。

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家の周りは高い石垣で囲まれている。

洪水のときに流木などが敷地内に流れ込まないようにするものだろう。

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⑦ 田島林平宅。

屋号は對青盧(たいせいろ)。主屋は慶応2年(1866)年築。規模は間口9間×奥行き5間。

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主屋は総櫓、切妻造り。

一見すると右側が入母屋のように見えるけれど、これは下屋。養蚕シーズンに主屋を片づけて生活するために建て増しした部分だと思われる。下屋部分にバルコニーがあるのがかっこいい!

また、2階を見るとサッシュの内側に手すりがある。おそらく本来はバルコニーだった空間を、養蚕をやらなくなってから壁に改築したのではないか。

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ここからは、田島弥平宅エリアから少し離れた場所で見かけた養蚕農家。➡場所

総櫓、入母屋造りの屋根。

2階はバルコニーがあるが、掃き出し窓になっていない。おそらく元々は吐き出し窓だったのを、2階を生活空間に改造したのではないかと思う。

でも、養蚕農家の2階って踏み天井(1階の天井板=2階の床板)なので、騒音問題があり暮しにくかったはず。

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裏側から見たところ。

北側を改築し、おそらく風呂とトイレを出している。

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切妻の養蚕農家。

櫓はない。屋根を葺き替えたときに撤去したか、もともとなかったのか。櫓は構造的にも気密性が悪くなるので、2階を生活空間にするには邪魔になる。

養蚕をしているときにも櫓は必須というわけでないが、雨天や夜間に室内の湿気を抜きたいとき、火を焚いて櫓から上昇気流で排気できるメリットがある。

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こちらは入母屋屋根の養蚕農家。

やはり櫓はない。

場所➡

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こちらは総櫓、切妻造りの立派な養蚕農家。

場所➡

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屋敷森のある大きな農家で、主屋の背後に貯桑場と思われる建物がある。

群馬県内には総二階養蚕農家が高密度に建ち並ぶ集落がかなりある。群馬県の農村=養蚕集落と言ってもいいからだ。そのいくつかは特筆すべき場所だと思っているが、島村はそれを代表する集落のひとつだ。

現時点でも観光でブラブラできる空気だし、いずれ重伝建に指定されるかもしれない。

(2012年12月28日訪問)

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