この旅で最初に訪問する石風呂、「家房の石風呂」は海岸線から近い集落の里山の中にあった。
石風呂とは、古墳の横穴式石室のような穴の中で火を燃やし、その余熱で入る一種のサウナである。
家房の石風呂が始まったのは江戸末期で、かつては背後に見える山の山頂付近にあったのが、やがて利用者が多くなり便を考えて昭和2年に集落付近に移転したのだという。
石風呂には脱衣所というか、休憩所が付属していた。
家房の石風呂は、主に麦刈りと田植えが連続する5月~6月に疲労回復のために使われた。入浴後には茶がゆなどを食べてくつろいだという。
建物の裏に石風呂はあった。
ちょうど小さな円墳のような感じの土饅頭で、側面は石積み。風呂への入口には木のフタがしてある。
内部は自然石の乱積み。かなり巧みに積んである。
赤くなっているのは、高熱で焼かれたためか。
稲藁を燃やしたような跡があった。
おそらく長く使っていなかったのを、誰かが試しに使ってみようとしたのではないかと思う。
本来は松の枝などをくべ、そのあとで濡れた海藻を敷き詰めて蒸し風呂状態にした。入浴する場合は、肌着一枚で入るのだ。
初めて見たので「これが石風呂というものか」という程度の感慨しかなかったが、このあとたくさんの石風呂を見たあとのでは、これは最初に見るにはちょうどよい特徴をよく備えた物件ではないかという気がする。
比較的新しくて実用的だが、構造的には伝統的な造りだからだ。
ちなみに、旧石風呂は山頂の笛吹峠付近にあり、現在でも遺構が確認できるという。
いまならきっとその遺構も確認に行ったと思う。
(2003年09月03日訪問)