青井夫八幡神社の滑り台

神社の丘陵に唐突に滑り台がある。

(徳島県神山町神領)

2002年の5月に、私はそれまで住んでいた横浜市から徳島へ転居した。関東から遠く離れた四国は、仕事の出張で何度か足を踏み入れた程度で、ほとんど未知の土地であった。

徳島に転居してからしばらくは身の回りの片づけなどでほとんど出かけることもなかったが、8月の夏休みごろには少し落ち着き、広島方面の旅行に出かける余裕もできた。

そのあと着手したのは徳島市周辺の町村めぐりだった。といっても、漠然と走り回るというのでは実感が伴わないので、まずお寺と神社を回ることにした。寺社については他の地域でもかなり見てきたから、比較することで徳島の歴史文化を肌で理解できると考えたのだ。

その寺社巡りで最初に目指したのは神山町だった。私が徳島市内で借りた家は鮎喰川という川のすぐ近くで、神山町はその鮎喰川の上流の町である。徳島市からは比較的近いが、途中深い横谷(おうこく)に閉ざされて、都の風も届かないといったような静かで落ち着いた山村だ。

夏休みも終わった9月から11月にかけて神山町を集中的に訪れ、町内の寺社のほとんどを見て回った。それをすべてレポートすれば相当のボリュームになるだろうし、多くは森に飲まれつつある地味な(やしろ)ばかりとなるので、いまのところ記事にする目処がたたない。

しかしその中で、滑り台の紹介として1ヶ所だけ、神山町の神社について書いてみよう。

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神社の名前は八幡神社とあるが、一応他の八幡神社と区別するために字の名前である青井夫(あおいぶ)をつけて、「青井夫八幡神社」としておこう。

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神社は小さな舌状の尾根の突端にあり、境内は照葉樹林で昼でも薄暗い。

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社殿は拝殿と本殿のみ。

ほかに、五角地神塔があった。

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本殿は流造りとでも言えばいいか。欅造りで彫刻などもある凝った建築。年代的には大正くらいではないか。

一般的には流造(ながれづく)りはカーブを描く曲線の屋根だが、これは神明造りのように直線だけで構成されている。カーブに相当するのは、腰折れのように折り曲げてあるのだ。こうした屋根は徳島の小祠によく見られるが、ある程度大きな社殿にはめずらしい。流造りとは別の言葉で呼んだほうがいい気もする。

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拝殿の横から、滑り台が伸びている。

手前のタタキに「1999.6.06」という定礎があるが、滑り台のコンクリとは年代が違いそう。

滑り台はかなり古いものではないかと思う。

滑降面は洗い出し仕上げだが、鮫肌みたいにザラザラでまったく滑ることはできなかった。

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滑り台の降り口はそのまま道路になっているので、子どもが道路に飛び出しそう。

もっとも、この道は奥には民家が1軒あるだけなので危険はない。

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滑り台の基礎が石垣で出来ているというのは珍しいと思う。

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このあと私には滑り台ブームが到来するのだが、このときはまだそういう視点では見ていなかった。

ともあれ、この滑り台は私にとって初めて採集した滑り台となったのである。

(2002年09月22日訪問)