ダッチャイッの渡船場①

寺の境内に船着き場がある。

(ミャンマーカレン州パアン)

カレン州パアン市からヤンゴン方面へ向かうルートは、国道AH1号線を通ってモン州タトン市を経由するのが一般的だ。だがWeb地図を見ると、AH1号線から途中で分かれチャウタロゥ村から西進するルートが描かれている。このルートを通れば、タトン市をバイパスしてその先にあるティンゼィ町へ行けるように見える。

ところがこれがアテにならない。カレン州の地図データは人口の少ない地域ではかなり大ざっぱで、①道の位置が1km以上ずれているのもざら、②橋がない場所で川を横断している、③そもそも描かれている道が存在しない、というようにきわめて信頼性が低いのだ。唯一信じられるのは衛星写真だが、道路なのか水路なのかわかりにくかったり、ものすごい悪路でまともに通行できなかったり、とにかく実走してみるまでは何もわからないのだ。それを偵察するというのも今回の目的のひとつである。

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チャウタロゥ・ティンゼィ街道とでも呼べそうなその抜け道がもし通行できるのならば、これまで未踏の場所だったタトン山脈の東麓地域の探索が可能になる。

その街道走破にあたって、いちばんのネックとなるのがドンタミ川の渡河ポイントの特定である。

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ドンタミ川はモンとカレンの州境の川で、全域で橋はAH1号線の1ヶ所にしか存在しない。それも軍の監視塔などがある物々しい橋だ。カレン州があまりにも長いあいだ内戦地域だったため軍事的な理由で橋がなかったり、わざと地図の精度が下げてあるのかもしれない。

そのおかげで、チャウタロゥ・ティンゼィ街道がどこでドンタミ川の渡河するのかどうもよくわからないのだ。地図における渡河地点が「数キロのブレの範囲のどこか」ということになるからだ。

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渡河ポイントとして可能性のある場所のひとつが、このダッチャイッ洞窟寺の境内なのである。

境内から突き出した立派な浮き桟橋がある。これは下流地域などから舟運で運ばれてきた貨物の荷揚げ場でもあり、対岸への渡し舟への乗り場でもあるように見えた。

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ただし気になるのは、対岸にそこから続く道が見当たらないことだ。

先ほど登った丘陵の上から見ても対岸は畑ばかりで、ここまで走ってきたような道幅の道路がない。

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もしかしたら対岸の畑に耕作に行くためだけの渡船場なのかもしれない

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岸辺には三重塔の形をしたシンウーパゴ堂があった。

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ここではシンウーパゴは寺に背を向け、川を見守っている。

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シンウーパゴの姿は太陽の高度を確認しているところだとされていて、その関連から船乗りの信仰を集めている神様だ。

右向きと左向きがあり、これは珍しい左向き。

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境内にはもうひとつ船着き場がある。

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そちらには舟を待つ人々がいた。

これが渡船を待つ人なのか、それとも上流や下流へ人や貨物を移動する水上バス的な舟を待つ人なのかはよくわからない。

しばらく様子を見ていたのだが、結局この渡船場がチャウタロゥ・ティンゼィ街道の渡河ポイントなのかは確信が得られなかった。

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川面を黒く染めているのは、おびただしい数の魚。

むかしは川の色が変わるほど魚が上ってきたというような話を日本で聞くことがあるが、こういう状態なのだろうな。

(2016年12月25日訪問)