橳島用水の水力発電所跡

むかし水力発電所があったという。

(群馬県前橋市ぬで島町)

「幽霊文字」というものをご存知であろうか? 

そのむかしコンピュータでは日本語を扱うことができなかった。そこで1970年代にコンピュータで扱う漢字(第一・第二水準漢字)約6千字を選定する作業が行われ、一般単語のほか人名、地名に使われる漢字も調査された。このとき前橋市橳島(ぬでじま)町の地名を入力できるように「橳」の字を採用したのだが、作業ミスで「橳」とすべき字体を「椦」として定義してしまったのだ。おそらく台帳を作るとき切り貼り作業で間違えたのだろう。その結果、本来必要なはずの「橳」が登録されず、漢字辞典に存在しない架空の文字「椦」が出来てしまった。このような、JIS規格表にだけ存在し、漢字辞典にはない文字が「幽霊文字」なのである。

その後、2000年の改定で第三・第四水準漢字が新たに追加され、あらためて「橳」の字も収録された。しかし2014年現在でも第三水準漢字を表示できないコンピュータは多く残っており、企業のデータベースや地図サービスではいまだに「ぬで島」のようにひらがな表記を使っている。もしかしたら、このページをご覧になっているコンピュータでも文章が文字化けしているかもしれない。

これから紹介する場所は、幽霊文字「椦」の発祥の地でもある。

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橳島用水は、前橋市の南部の六供町と橳島町の境を流れる川だ。

六供町清掃工場の南側で利根川に注いている。

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このあたりの利根川は江戸時代に現在の流路になったため浸食が新しく、平野部にしては急峻な崖が続いている。

そこに新たに掘削された用水路が合流するのだから、まるで滝のような落差が生じているのである。

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この場所に、一時期、水力発電所が作られたことがあるというのを何かの本で読んだことがある。

すぐ近くに住む人が畑仕事をしていたので訊いてみたが、そんな話は知らないと言われた。あまり有名な話ではなさそうだ。

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その正確な位置はわからないが、崖には不自然な石段もあり、この場所がかつての発電所の跡だったのではないかと想像される。

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最近、小型水力発電が脚光を浴びているが、ここに設置したらかなりの発電が可能だろう。

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階段を下りきったところは、利根川の流れが洗う淵になっている。つまり、階段を下りてもどこにも行けないのだ。

こうした行き止まりの階段には魅かれるものがある。

(2014年05月03日訪問)