安中市鷺宮の宮本という字に2階建ての稚蚕飼育所があり、中を見せてもらえるというので出かけた。
碓氷安中をまわった2日間でも、この付近の飼育所を見ているのだが、地図に見落としがあったのだろう。外見は農家の蚕室のような感じで、これはよほど注意深く見ていないと稚蚕飼育所だとわからない。
道から見えない反対側は、やや稚蚕飼育所らしいたたずまい。
越屋根を載せた小屋で、切妻の破風の上部にめり込むように換気窓をつけた納めかたを「破風切れ型」と表現しているのを、タバコ乾燥小屋研究のサイトで見かけた。これからはそう呼ぶようにしよう。
碓氷安中では下後閑東部飼育所で見かけたくらいで、稚蚕飼育所には珍しい。タバコ乾燥小屋に比較的よく見られる納めかただ。
表札が残っていた。この建物は、1階が稚蚕飼育所、2階が公民館になっているという特殊な造りだ。
案内してくれた田中さんがこの村で養蚕を始めた昭和36年にはもうこの建物は、このような造りで使われていたと言う。
室内に入ると「煙草土足厳禁」の注意書き。
稚蚕はタバコの煙に弱いと言われていて、蚕座にタバコの煙が流れたらその煙に形に沿って全滅するという話を聞いたことがある。壮蚕もタバコには弱く、桑畑の近くに葉タバコの畑があって、たまたま風向きが悪くてタバコ畑のほうから風が吹いた桑畑の葉を食べさせると、泡を吹いて死んでしまうことがあるともいう。
室内には鉄線が張ってあって、雨で濡れた桑を収穫してしまったときにここに吊るして乾かしたのだそうだ。
蚕室は土室が10室。1号室~4号室までは、2室が内部でつながっているタイプ。5号室~7号室、8号室~10号室は内部が3室つながったタイプだった。
途中に軽量鉄骨で補強された梁が見えるが、そこから先は建て増しかもしれない。
土室の中にはいまでも竹製の蚕箔が残っているし、給桑台もそのまま。
飼育室は他の用途に転用されたことがないので、飼育所当時の状況がよく維持されている。
土室専用の乾湿計。
ガラス管がL字型に曲がって、室内の温度を表示できるようになった優れもの。
中央の四角い通気孔は、掘り下げないタイプだ。
穴の奥に電床線が見えている。
飼育所の奥のほうの建て増ししたと思われる部分には、ブロック電床育の室が2つある。
温度管理をしていたと思われる機器。
これまで何度か見てきたものだ。裏側にあるのが温度のセンサーなのだろう。
入口側には挫桑場がある。
この地下が貯桑室なのだが、湿気が多い貯桑室のため、床が腐りかけていて、写真の色が濃くなっているあたりは上を歩くことができない状態だった。
奥に斜めにロープが張られているところが貯桑室への入口になる。
そのロープを引っ張ると、床板が開くようになっている。
これはカッコいい。このタイプ初めて見た。
貯桑場への階段。
階段も腐りかけている。ロッククライミングなどでやる三点確保で、安全な段だけを使って降りる。
貯桑室の床には竹のスノコが敷かれていた。水が溜まって、スノコが浮かんでいる状態だった。
宮本の集落は台地の北斜面にあって、付近には湧き水も多い。地下水の水位も高いのだと思われる。
挫桑場には連絡用の黒板と、台秤がある。
黒板には計算が書かれているが、何の数字かはわからなかった。写真ではわかりにくいが、後ろの壁にもチョークでびっしりと計算が書き込まれている。
飼育のスケジュールを印刷した標準表がまだ残っていた。平成8年の日付が書かれているので、この飼育所が最後に使われた年なのだろう。
2階にも上がらせてもらった。ここは集落の集会場に使われていた部屋。
天井には鉄線があって、ここで濡桑を乾燥させることもあったという。
手前側には神棚もある。この集落では、養蚕の豊作祈願のため毎年必ず迦葉山にお参りしていたという。
左側に見える地窓を開けると、土室の天井の上に出られる。
2階の地窓から外を見たところ。土室を上から眺めることができる。めったに見られない角度だ。
換気用の土管の上を紙でふさぐときに、ここから作業したのだろう。
飼育所を北側から見る。右側の赤い屋根が掛かっている部分が土室がある部分だ。
このアングルから見て、土室に気付くのは至難の業と言ってよいだろう。
飼育所のまわりには農具などが雑然と積まれているが、その中に養蚕火鉢があった。
案内をしてくれた田中さんによれば、この火鉢は室の中を温めるのではなく、作業する部屋を温めるのに使ったものだという。
もう一つ、養蚕火鉢を発見。こちらには灰が残っている。このくらいたくさん灰を入れるものなのだろうか。
実は私も養蚕火鉢をひとつ手に入れたのだが、普通の火鉢より平べったいため、火を使っていると底がかなり熱くなるのが気になる。灰を多めに敷いて、さらに火鉢の下に何かを置かないと、床が焦げるのではないかという気がする。
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