穴吹町三島大重のタバコ農家

吉野川を見下ろす高台にあるタバコ農家。

(徳島県美馬市穴吹町三島大重)

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徳島を横断する大動脈、国道192号線。その南側の山並みは直線的に愛媛県まで続いている。その山並みを見ていくと、ところどこの山腹に民家があることに気付く。

これから紹介するタバコ農家、尾形家はこうした山腹の家の一軒だ。

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場所は矢印のあたり。住所からすると穴吹町でこれまで紹介した口山半平とおなじ町になるが、吉野川に面した斜面なので雰囲気はだいぶ違う。

敷地から見えるのは雄大な吉野川の流れと平野に暮らす人々の営みで、秘境感がまったくない。最寄りの脇町には大きなスーパーや病院もあり、車で15分程度で行けるから足さえあれば生活には困らない。脇町で手に入らないものがあれば高松方面にも出られるから、脇町って意外に便利な場所なのだ。

集落の人家は標高300mから500mにかけて点在するが、尾形家はその中でもっとも低い場所にある。

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ただそれでも国道からは標高差250mはあるので、ここに村が出来たときはこんな山道を上り下りしなければならなかった。

明治以降も子どもの通学は大変だったろうと思う。

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現在は山頂まで車道が出来ている。尾形家はその車道から枝道を下った行き止りにある。

つまり敷地から下のほうへ行けない場所であり、私の大好きな地形なのだ。

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敷地は北斜面だが平坦で自家用の水田も作っている。

今年は雨が少なかったのでタバコの出来は上々だった。

田んぼは天水ということで小雨だと心配してしまうが、稲は平均的な年の半分の水があればいけるのだそうだ。

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畑は主屋の下に1箇所、主屋の上側に2箇所の合計3箇所あって、面積ははっきり確認しなかったけれど、20アール弱くらいある。

こちらは主屋の上の段の畑。

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タバコを植えた場所にはこのような耕作地であることの証明書を立てなければならない。

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1.5アールほどの小さな畑。小さな面積の作付けも、1圃場として申請しなければならないのだ。

こちらは主屋の上の段の畑。

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訪れたとき留守かと思って帰ろうとしていたら、隣家の人に奥さんは畑にいるといわれ、畑のほうへ行ってみた。

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タバコが背よりも高く育っているので気付かなかった。

きょうはワキ芽掻きの作業中だった。

タバコの植物の表面には樹液のようなものが分泌されていて、ねっとりとしている。そのため畝間に入って作業をすると全身にその液が付いて真っ黒になってしまうという。きのう雨が降ったのできょうは少しましだとのこと。

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きょうは7月11日。

芯止めはもうすべて終っている。

芯止めを始めたのは6月27日で、1回では止まらない(再生する?)ので、何回も止めなければならないという。すべての作業に2週間くらいかかるとのこと。

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ワキ芽を掻いた跡。

以前聞いた話だとワキ芽も何回か取らないと止まらないそうだ。

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尾形家の屋敷は以前訪れた高尾家と同じ北向きの斜面。

そのため、主屋の玄関を出るとすぐに斜面になっている。

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主屋と斜面の間のわずかな斜面が干し場になっている。これも高尾家と似ている。

やや風通しの悪い、乾きにくい干し場として使い分けるのではないかと思う。

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主屋と納屋の間の敷地も干し場。

平地を余すところなく干し場にしている。

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主屋の右側には古い蒸屋がある。

大きな越屋根が載っていてベーハ小屋のような外観だがベーハ小屋ではない。

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地窓がある。

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この建物は現在は乾燥には使っていない。

下屋の柱がすごいな。

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蒸屋の右側は干し場になっている。

その先にはハウス式の乾燥室。

この干し場は風がよく通るので乾燥が早そう。

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乾燥室は一部が透明の波板になっていた。

採光の意味もあるが、日射があるときに乾きやすくするためだろう。

吊り方が建物の棟に大して直角。他の農家の乾燥室とは違っている。出し入れはやりにくそう。この建物は乾燥室というよりも乾燥が終った葉を入れる倉庫のような使い方なのかも。

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乾燥室の右側はさらに干し場になっている。

すべての施設が直列に並んでいるのだ。

この干し場は、農業のパイプハウスの骨組みで屋根が架けられる。

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屋根が付くとこんな感じになる。側面のシートはたくしあげられるようになっているので開け閉めで湿度の管理ができる。

尾形さんによれば「阿波葉は日乾干(にっかんぼ)しが基本」なので、蒸屋などを使わず野外で乾燥させ、乾燥が終ったものからハウスに収納していくという。

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収穫が進んだ時期に再び訪問してみた。

思えば、農業のパイプハウスを干し場に利用している阿波葉農家って意外に少ないな。 

パイプハウスは建築費が木造のハウスに比べて安いし、固定資産税もかからないので意外にいいやり方なのではないかという気がする。

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蒸屋の前の屋根にも葉が吊られている。

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ここは屋根がない。

ハウスよりも乾きやすいのではないかな。

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黄色が美しい阿波葉の連干し。

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連干しに使う縄はこれまで見た農家はほとんどが自作に見えたが、これはたぶん市販品。

おそらく黄色種の連干し用の縄ではないかと思う。

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少し天気が下り坂になってきた。

葉を取り込むというので見せてもらう。

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S環はカーテンの吊り具みたいに動かせるので、2人で縄の両側を持って押していく。

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この作業、2人いないとやりにくいな。

まあ何でも農作業は一人でやるものじゃないような気がするが。

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6月の夕暮れに訪れたタバコ畑から吉野川を見下ろした風景。

田んぼに張った水と吉野川の水面が金色に染まっていた。

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(2008年07月26日訪問)