多福寺に続いて、すぐ近くにあるお寺、多聞院へ。
あれ? こんな感じだったっけ?? うん十年ぶりに来たので記憶が薄れているというのもあるけれど、だいぶ整備された感じがする。
東京からも近いし、周囲の環境がいいから霊園が売れて豊かになっているのか。でも、血眼で墓地分譲しているという感じでもなく、イチゲンの観光客が気持ちよくお参りできるような、ウエルカムな雰囲気がある。
駐車場も広く、すごく立ち寄りやすい。
境内に入るとまずあるのが信徒会館。お葬式や法事が寺の中でできるようになっている。
この寺はちょっと他の寺とは異なっていて、境内に庭木を植えて公園のようにしつらえてあるところ。駐車場に着いても、見えるのは庭木ばかりで寺の全容がさっぱりわからない。
ほとんどの寺は本堂前に広い土地があれば、墓地にして分譲するか、砂利でも敷いておく感じだと思う。土のままにしておけば雑草が生えるし管理が大変だからだ。だがこの寺は、桜、ツツジ、萩などの庭木を植えて民家の庭みたいにしつらえてある。
資金力のある寺が枯山水作ることはあるけれど、この庭はそういう剥き出しの寺らしさもなく、すっごく落ち着く。
もっとも、この寺がそういうことをできるのも、敷地が1.5ヘクタールほどもあり、墓地は本堂の裏手のエリアに配置できているからでもあるのだが。
まず、本坊のほうへ行ってみよう。
なんか、お寺参りしているという感じがまったくない。
不思議なことに、南側から来ると本堂(客殿?)の側面に突き当たる。いま見えているのは本堂の右側面なのだ。本堂の右側は方丈のような建物で、護符売り場になっている。
住職や家族の生活の場である庫裏は見当たらない。敷地外にあって通いなのか、あるいは、方丈の背面の見えないところにあって家族の導線と参拝客の導線が完全に分離してあるのか、まったく生活感がない。よく整えられた古都の観光寺院に来ているみたい。
本堂は西向きで、そちらにも参道はあるけれど、樹があるので本堂の全景は見えない。
本堂に上る車いす用のスロープは公園の遊具ふうだけど、違和感はない。
というのも、この本堂前の空間は、参拝客が楽しくなるようにデザインされた場所だからだ。
本堂前はあまり広くはないが、色々と楽しいギミックが配置されている。
まるで力石が相撲を取ろうとしているようなオブジェになっている。力石とは、村祭などで行われたウェイトリフティング大会用の石だ。現代人ではとても持ち上げられないが、かつては米俵を2俵(120kg)運ぶ人夫が普通だったし、女性にもそうした力自慢がいた。
力石は神社でよく見かけるが、だいたいは拝殿の横のあたりに転がっていたり、境内の隅の植え込みに投げ込んであったりで活用されていない。
笠地蔵。
六地蔵と米俵の石造オブジェを組み合わせて、昔話の笠地蔵のシーンを再現している。ありそうでなかった面白い発想。
米俵以外に、白菜、大根、甘藷が並んでいる。「米俵のオブジェ見かけたので思い付きで置きました」っていうのではなく、ちゃんとこの物語のために作らせたのだろう。
カワラケ割り。
小皿を的に投げつけて、当たれば願いがかなうというもの。
カワラケって現代では食卓で使われることはなく、的に当てて割るとか、崖から投げるとか、そうい用途にしか使われていないよね。
カワラケは1枚100円で売られていた。
同時に売られていた素焼きのお稲荷さん。
奉納用の素焼きのお稲荷さんってかつては寺社の門前町なんかで売られていたとうけれど、いま売っているところはほぼない。
ちょっと技巧的で美し過ぎる嫌いはあるが、貴重な存在だと思う。価格は300円。
続いて、毘沙門堂へ。
この寺は多聞院というだけあり、実質的にはこちらのお堂が本堂といっていい。
現在は駐車所が境内の隅にできたから横から参詣するようになってしまったが、本来はこのお堂の前が寺の正面入口だったのだろう。
水盤舎。
COVID-19のため使用中止になっていた。
毘沙門堂前の狛犬、いや、狛トラ。
毘沙門天は寅年の神様で、眷族のような扱いでトラ像がある場合がある。
今年は干支もトラだからか、毘沙門天の周りには素焼きのトラが無数に並べられていた。
きょうはひと気のない寺だけど、これだけ並ぶほど観光客が来ているということだ。
ほかに水子地蔵用の風車も販売している。
こういう祭具いったいどこで作られてるんだろう。たぶん国内だよね・・・。
毘沙門堂は渡り廊下で本堂とつながっている。
渡り廊下の途中にある水子地蔵。
水子地蔵の横にも地蔵がある。
境内に石仏が多いな。
ただ並べてあるというのではなく、庭木の中に点在しているので探索するのも楽しい。
末社の豊川稲荷。
豊川稲荷の横にある弘法大師堂。
街灯付きの鎮守社。
奉加帳を持ち、唐傘を背負った鬼。
大津絵に描かれるモチーフだけど、立体物って初めて見た。
こちらも鬼の像。
元は石灯籠かなにかの一部のような気がする。
井戸の跡かな。
突き出ているパイプは井戸じまいしたときの息抜きだろう。
境内石仏意外にも細々としたものがあるのだけど、すべて庭木の中に隠れていて、もうどこにあったの説明できない・・・。
こちらは絵馬納所。
こちらは古札納所。
先代の狛トラかな。
風化していてはっきりしない。
ヤマカガシが日向ぼっこしていた。
ネズミでも食べたのかおなかが膨れている。
このお寺、散策するだけでも楽しい。花の季節にはもっといいだろう。
(2022年04月12日訪問)
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