坂野町の映画館を見つけたのは、私が徳島に移住して1年くらいたったころだったと思う。
休日の夕方にヒマを持て余して、目的もなく南のほうへ車を走らせていた。徳島で南へ行く、といえば4車線の国道55号線が快適なルートだけれど、そういう快適な道ではなく、ひたすら裏道を抜けていく。小松島、赤石から和田島方向へ進んだが、気まぐれに途中から県道273号線という古い道へ入った。この街道は明確にたどれるのは坂野町までで、最後は恐ろしく細い道になり八幡神社の境内で終わっている。その最後の細い路地の奥で、木造の古い映画館の建物を見つけたのだ。
「こんな場所に映画館が!」まずそれが驚きだった。
ただそのときはもう日が暮れていたので、いつか写真を撮りに来ようと思いながら1年以上が過ぎていた。その後発見した立江の映画館と合わせて、きょうはダブルヘッダーで坂野の映画館も撮影しようという趣向。
県道273号線はもともと裏道だから決して広い街道ではないのだが、坂野小学校の信号を過ぎたあたりから急激に狭くなる。
四輪車の対面通行は困難で、気持ちの上では3ナンバーの車などは両側の塀にバックミラーを擦るんじゃないかっていうくらいの雰囲気。
それでもここは、単なる狭い住宅街ではなく、しもた屋が続く古い商店街の跡なのだ。
そして、このカーブの先に映画館が、、、
ぇえええぇぇぇぇーっ!!
なッ、なくなっとる!!
しかも最近取り壊された様子・・・。
オレは何をやってるんだ!?
来るのが遅かったのだ、なんですぐ再訪しなかったんだろう・・・。
泣きそうになりながらも、近所の人がいたので聞き込みをしてみた。
映画館の名前は「坂野劇場」。芝居小屋が元と思われ、その後、映画を上映するようになったが、テレビが普及しだしたころには映画をやめて、地芝居や人形浄瑠璃を上演するだけだったらしい。
映画館の中に理髪店が入っていて、散髪を待っている客が切符を買わず映画を見たりしたという。おおらかな時代だったのだ。
映画館の撮影ができなかった腹いせに、隣りのしもた屋のホーロー看板でも撮るか。
目の前が真っ暗になるほど落ち込んだので、投げやりな気持ちで
薬屋だったのだろう。
避妊具の自動販売機があった。
この映画館がどのような姿だったのかはぼんやりとも思い出せない。ただ、木造モルタルでない木造だったと思われ、徳島県内で最初に撮影すべきだと自分の中で位置づけていた物件だったので、ショックは大きかった。
この事件をきっかけとして、わたしの徳島県内の映画館めぐりが始まるのである。
(2004年11月13日訪問)