今回の旅でいくつもの鍾乳洞を訪れているが、ほとんどはドライブマップで位置を調べただけで、事前に内容の詳細を調べているわけではない。
そうする理由として、ひとつにはあまり下調べし過ぎてしまうと実地ではただの確認作業になってしまい楽しみがなくなってしまうということがある。もうひとつの理由は、訪問先が多すぎていちいち下調べすることができない、というのも大きい。今回の旅に出てから5日目、ここまでで150ページ以上の紹介記事を書いているが、そのひとつひとつを事前に調べてから旅に出るなんて不可能だ。
この
それでもこの鍾乳洞については、奥に天井が崩落した穴があって外の光が入る場所がある、という特徴だけは聞き及んでいた。
深さは1,600mあり最深部には地底湖があるという。一般人が入れそうなのは700m地点まで。
鍾乳洞の詳細な場所は不明だが、神社の境内に張り紙があったのでその方向へ行ってみることにした。
神社の裏手に鍾乳洞用の駐車場と思われる空き地があったが、その先の案内は出ていない。だが駐車場からドリーネに降りてゆけそうな踏み分け道があったので、そこを降りてみた。鍾乳洞があるとしたらたぶんこのドリーネの底だろうと思ったからだ。
入ってみるとこのドリーネはすごく巨大で、幅150m、長さ数百m、深さも100m弱はあるだろう。その底へ向かってつづら折りの踏み分け道を降りていくこと自体が、まず驚くべき体験なのだ。
こんな巨大な穴が地表にぽっかりと口を開けているということが驚異だ。人間の存在や生命をちっぽけなものに思わせるほどの荘厳な空間。その大自然の力が全方位から覆いかぶさってくるような感覚に圧倒される。この感覚は写真や言葉だけでは伝え切れない。
こんな驚異を知らずに日本人の大多数は日々を暮らし、一生を終えるのだと思うと不思議な感じがする。今回の旅に限らず、私がこれまでこのサイトで紹介してきたすべてのスポットの中で、このドリーネは最も私の心を揺さぶった場所だと言っていいだろう。
まあ、地下というものがそもそも非日常の世界で死を連想するし、実際に死の危険に直結する場所でもあるので、そうした空間を体験をしてしまうと洞窟探検がやめられなくなってしまう人もいるのだろうなと、容易に想像がつく。
私ももう少し若かったら、ケイビングにハマまってしまったのではないかと思うことがある。
鍾乳洞はドリーネの底に口をあけていた。
巨大な洞口だ。
洞内の案内板もなく非観光の鍾乳洞である。
とりあえずビビリに徹して、極度に狭いところや崩れそうなところには行かない、水の中を進まない、落ちたら怪我につながる段差や斜面は越えない、という縛りで少しだけ中に入ってみた。もちろんヘッドライト付きのヘルメットや予備ライトや警笛など、最低限の装備は持ってである。
洞口を入るとすぐに外光は届かなくなる。
内部は巨大なホールが広がっている。懐中電灯の光は闇に吸い込まれて消えてしまうため、洞窟の全容を写真で紹介することはできない。
足下には大きな石がゴロゴロしていて、歩きにくいことこの上ない。常に足下を見ながら進んでいく状態だ。
洞窟の内部がどうなっているのかまったくわからないので、右手の壁に沿って進んでいくことにした。
右側の壁から離れないようにしながら、すべての支洞を一筆書きのように見ていけば見落としを防げるだろう。
洞口から50mくらい入ったところで右側にわずかに登りの傾斜があり、狭い支洞のような穴があった。
そこを通り抜ける。
特徴的な場所なので帰路でもこの狭い通路はわかるだろうと思った。
そこから先はまた巨大な空間で、前後左右完全な闇の中を歩いていく。
洞内はほとんど平坦で、石が転がっていて歩きにくいということを除けば特に危険な要素は感じられない。前進を妨げるものがあるとすれば闇に対する恐れだけだ。
二次生成物はわずかしか見あたらなかった。
全体的にゴツゴツした岩の洞窟という感じだ。
唯一きれいな鍾乳石がこんな感じ。
洞窟サンゴのような二次生成物も見られた。
完全な闇の中を700mほど進んだところに、天井が崩落し、地上の光が差し込んでいる場所があった。
「大穴」と呼ばれる天窓だ。この穴は絶景なのに写真がない。その理由はこのあと書こうと思う。
しばらく進むと、下り傾斜の濡れた狭い穴があった。どうやらそこから先は危なそうなので入るのはやめておいた。
あとで調べてみたらそこが一般人が行ける最深部「神の池」と呼ばれる場所だったのだ。
右手の壁づたいに進んでいるのであれば、その神の池から先は復路、つまり同じ洞窟を戻る方向になるのだ。
ところが私は洞窟の全容を知らないから、まだ奥に向かって進んでいるのだと思い込んでしまっていた。洞窟が大きすぎて、全体をライトアップできなかったのと、足下ばかりを照らしていたため、転進しているのを認識できなくなっていたのだった。
帰路で再び大穴の場所を通過したときも、この鍾乳洞には2ヶ所の天井の穴があると聞いていたので、2つ目の穴を通過しているのだと思っていたのだ。穴の写真は帰路で撮影すればいいや、と思いそのまま進んでしまった。
700mを戻って洞口に出たときも、
「あれ? 別のドリーネの底に出た? こんな場所があるなんて聞いてないけど?」
と思ったのだ。
自分が入った洞口に戻ってきていたのに、違うと思ったらそう見えてしまう。特に往路ですごく狭い場所を通過したのにいまだその通路を通っていないことからも、まさか洞口に戻ったとは思いもしなかったのだった。
実はこの鍾乳洞は下図のような構造になっていた。初めに洞口から右の壁づたいに通過した狭い通路はすぐに本洞に合流していたのだった。したがってその後ずっと右壁をつたっても狭い通路に戻ることはない。そのせいで洞口まで戻ってきていたのに、別のドリーネに出てしまったと勘違いしてしまった。
ここまでに、石がゴロゴロした真っ暗な洞窟を約1.5kmも歩いており、足場の悪さにうんざりしていた。想定しない場所に出たこともあって、早く洞窟から出たいという気持ちになりはじめていた。
気持ちが焦っていたのだろう。以後は細い支洞には入るのはやめて右側に壁を見ながら歩くことにした。これまで続けてきた一筆書きからルールを変更したのだ。だがこれが2つめの間違いだった。
一筆書きを守っていればすぐに狭い通路を通ることになり間違いに気付いたはずなのに、結果として私は、外に出るつもりで逆に洞窟の奥へ踏み入っていたのだ。
真っ暗な中を700m進み、大穴が見えてきたとき、初めて同じ場所を回っていたことに気付いた。
事故につながるような事態ではないのだが、ショックで、写真を撮ることも忘れてしまった。
そのあとは闇から逃れるように出口まで駆け戻ったのだった。結局大穴まで2往復、約3kmにもおよぶ洞窟歩きとなってしまったのである。
(画像はGoogle Earthより)
2008年にこの鍾乳洞の最深部にある地底湖でで大学生が遭難し、いまだに遺体が見つかっていない。そのため、現在(2017年6月)はこの鍾乳洞への入洞は許可されていないようだ。
(2003年05月01日訪問)
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