
パアン市の南西部、サルウィン・パアン橋付近を紹介している。
サルウィン・パアン橋は①の場所、そこからサルウィン川の右岸(西岸)を2kmほど下流に行ったところ、②の場所にコーゴン洞窟という観光洞窟というか遺跡がある。コーゴン洞窟は定番の観光コースで、パアンを訪れた人の多くが見学する場所だ。
だがよく見ると、その南側の水田の中にさらにいくつか小山があることに気付く。そのうち③は山麓まで道があることから、何かあるかもしれないとにらみ、調べてみることにした。

コーゴン洞窟を南側から見たところ。
中腹に新しくパゴダが作られているようで、もしかするとコーゴン洞窟にはまだ見落としている場所があるのかもしれない。

これから向かう小山。
右側に続いている森の中に集落があるようなので、その集落の中の道を通って山に近づくことができそうなのだ。
事前に航空写真を見てきているとはいえ、写真からは道なのか水路なのかよくわからない地形も多く、また、森の中には道があるのかどうか確認できない。結局はけっこう迷うことになる。

集落の中の道、といってもせいぜい荷車が通れる程度。
オートバイだからいいが、四輪車だとちょっと躊躇してしまいそうな道を進んでいく。

集落の道の突き当りには地味な僧院があった。
お坊さんが出てきたので訊ねると、ジョングェ僧院とのこと。

「あの山、ここから行けますかね?」
「山に行きたいのか! ヨシ、案内してあげよう。オートバイで私の後をついてきなさい」
あまり期待せずに訊いてみたのだが、お坊さんはけっこう乗り気だ。乾き切ってデコボコの田んぼの中をお坊さんが走っていく。私はオートバイでハンドルを取られながらもなんとかお坊さんについていく。
お坊さん、この猛暑のなか、すごいな。

お坊さんに案内されてついた場所では、洞窟の入口があり、家族と思われる人たちが働いていた。
洞窟の名前は「タングリー洞窟」とのこと。
あれ? もしかしてちょっと前に行ったタンカリー僧院の「タンカリー」と同じ言葉か? だとすれば「小さな山の洞窟」というような意味かもしれない。

「さぁさぁ、入って、入って」
どうやら洞窟をお寺に改造するために工事を始めているようなのだ。
一部分だが照明もついている。
私は懐中電灯を取り出して、照らしながら進む。

洞窟はかなり深そうだ。
そしてこれまでにない特徴なのだが、洞窟の床面には粘土が溜まっている。
水が流れた痕跡だと思われる。

50~100mくらい進んだだろうか。
途中から天井が高くなり、大広間に出た。

洞窟はやや上りになって続いている。

「さあ、あそこに登りなさい。」
登りなさいって言われても・・・、簡単には行けそうにないんだけど?

どうやらこの割れ目を通っていくしかなさそうだ。
洞窟の中は思ったほど涼しくなくて、汗でシャツがベタベタしている。岩にこすりついたら、シャツが泥だらけになりそう。

狭い隙間を身をよじりながら入っていく。
岩壁に両足を踏ん張りながら登っていくしかなさそうなのだが、サンダル履きだから踏ん張りがきかないのだ。

やっとこさ、割れ目の上に出た。
帰路でここを降りるの、やだなあ・・・。

お坊さんはさっさと登って、また先を歩いていく。
このあたりはまだ照明設備ができていないようだ。

しばらく進むと、外の明かりが見えてきた。
この洞窟も山の反対側まで抜けているのだ。
パアンの周辺の鍾乳洞は、山を貫通しているものが多い。このような鍾乳洞ができる条件があるのだろうか。
この洞窟に関していえば、サルウィン川の氾濫原にあり、中を水が流れたような痕跡もあるので、川が何らかの作用をした可能性もあると思う。海蝕洞の川バージョンか。

洞窟の反対側は森になっていて、お寺の建物などがあるわけではなかった。

洞窟の入口で働いていた人たちや子どもたちがいつのまにか集まってきていた。
たぶん、他所者がめったに来ないので面白がってついてきたのだ。

帰路はまたあの割れ目を降りるのかと思ったら、別のルートへ進んでいく。
こっちからも行けるのかな。
ここも水が流れたような跡がある。

今度は子どもたちが先導してくれる。

「あっちに支洞があるからついてきて!」
裸足の子どもたちはさっさと登っていくが、サンダルで登るのにはギリギリの斜面だ。

お坊さんも一緒に支洞に入ってきた。
私は必死に斜面を登っているので、シャツは水でもかぶったみたいに汗でびっしょりになっている。お坊さんはそれを見てびっくりしたみたいだ。
「すごい汗だけど大丈夫?」とか言っている。たぶん。

支洞の一番奥まったところ。すこし平らな小部屋になっていた。
ここはお寺が完成したら、お坊さんの瞑想室になるか、奥の院的な場所になるのだろうと思われた。

洞窟は全長は200mくらいか。
セメントなどが積んであるから、これから仏像や通路を作っていくのだろう。
男だけでなく、女や子供も一緒に働いている。ミャンマーの仏教徒の、人力の奉仕でお寺をもり立てて行く感じはすごいと思う。

お坊さんありがとう。
一応、500円寄進した。

この山の東側には、航空写真にはまだ反映されていない新しい道があった。こちらからもう一度山に近づいてみたが、採石場みたいな場所があるだけだった。
おそらく、鍾乳洞の反対側の出口あたりに通じているのだろう。洞窟寺院が完成したあかつきには、こちらが表参道になるのかもしれない。
この小山にはほとんど何も期待していなかったのだが、うれしい誤算で鍾乳洞を見学できた。おそらく、ここを訪れた外国人は私が最初ではないかという気がする。
パアン周辺の小山は、航空写真で何もなさそうに見えても、すべて調べたほうがよさそうだという思いを強くしたのだった。
2019年5月にこの洞窟は正式オープンした。新たに北側からの取付け道路も造られ、簡単に観光できるようになっている。洞窟の正式名称は「シュエチャーピン洞窟」のようだ。
(2015年05月03日訪問)