西原の環濠屋敷

西南東の三面に環濠の跡が確認できる貴重な遺構。

(群馬県前橋市上佐鳥町)

前橋市の南部には「環濠屋敷(かんごうやしき)」と呼ばれるものがある。周囲に濠を巡らせている人家だ。先に紹介した乗明院も環濠屋敷の範疇に入るものだが、寺院でもあるので「屋敷」というにはやや違和感があろう。対して、これから紹介する「西原の環濠屋敷」はまさに環濠屋敷そのもの言える存在である。

前橋南部の地図を見ると、天川町から橳島町までを斜めに横切る橳島用水を境に南北で風景が大きく異なっている。北側は区画整理が進んで住宅が密集しているが、南側は広大な田園地帯で集落が小島のように点在している。小島のような集落はまるで城のなわばりを思わせる地割りになっていて、その中心を縮尺を上げて観察すると濠を持った人家、すなわち環濠屋敷が見えてくる。これからしばらくは、環濠屋敷を巡ってみようと思う。

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西原の環濠屋敷は、北と西に季節風除けの常緑樹の屋敷森を持ち、南と東にひらけている。

環濠は、西、南、東面にはっきりと残っているが、私が訪れたとき、水を満たしていたのは東側だけであった。

左写真は、敷地の南西の角の部分。

90度に折れ曲がる濠がわかる。

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左写真は南側の濠を、西から東方向に見たところ。

訪れたのが冬だったので、水は溜まっていないが、雨の多い季節にはまだ水が溜まるのではないか。

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南側の濠を、東から西方向に見たところ。

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南東の角。

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東側にはいびつな濠があって、ごく最近まで水底だったようなぬかるんだ泥がたまっている。

奥に見える薬医門は、屋敷への入口である。この家は東側に入口があるのだ。

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東側の濠。

ここは常に水があるようだ。この水地は地図でも確認できる。

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現在、敷地への入口には土橋がかけられていて、車が通行できるようになっている。

このように濠を渡る土橋で屋敷に入るようになっているのが、前橋南部の環濠屋敷の特徴である。

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土橋の北側にも水のある濠が続いている。

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東側の濠を、北東の角から南方向に見たところ。

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北面は農作業のための場所になっていて、濠は埋められてしまっている。

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屋敷の北側は2mくらいの土塁が巡っている。

これは農家ではなく、一種の館、城郭的なものではないかと思えてくる。実際、環濠屋敷は文字通り「お屋敷」であり、大きな家であることが多い。

かつてはもっと多くの家に濠があったという発言を何度か聞いたが、環濠屋敷は単に用水が家の横を流れている、というのとは違う気がする。

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北西部分の濠。

だいぶ埋まってきている。

この環濠屋敷は前橋市内では特に優れた遺構なので、これ以上埋め立てられることがないことを願うばかりである。

(2014年12月27日訪問)