弘法井戸

高井戸という集落をささえた湧水。

(群馬県藤岡市下日野)

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稚蚕飼育所巡りがひと段落しつつあった2009年ごろ、鏑川の南岸の山中の集落をすべて訪れるという目標を立てて、1/25,000の地形図で建物がある場所をしらみつぶしに巡っていた。

その中でも特に印象深かったのは、牛伏山(左写真)の南側の字である。大判地(だいはんじ)大澤の2箇所を紹介したが、実はそれ以外にも「ここはいいなあ」と思わせる字がいくつかあった。だが、それらは(廃村になりかけている関係からか、)樹木や竹が繁茂していて、写真が撮りにくく紹介できていないのだった。

これから紹介する「高井戸集落」もそのとき訪れて紹介していない集落のひとつだ。

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吉井町側から牛伏山を回り込んだ行き止まりの集落は大澤なのだが、そこからさらに細い山道を南へ進むと、峠を越えて日野の谷に入ることができる。

途中の峠道からは牛伏山頂の展望台がよく見える。

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その峠付近にある集落が高井戸である。その地名の由来となったのは、村の中央にある弘法井戸と呼ばれる湧水であろう。

地形図を見ると、高井戸は地滑り跡の南西斜面に出来た高地性傾斜地集落であることがわかる。鮎川からは標高差が200mもある。そうした高地でも通年で水が確保できる湧水があれば、集落が作られるのだ。以前に紹介した、妙義町の大久保集落と条件が似ている。

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井戸には覆い屋がついているが、鍵はかかっておらず、自由に内部を見学することができる。

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岩の割れ目からきれいな水が湧き出している。

水道の施設ができるまでは、各家はこの井戸で水汲みして台所の桶に移すのが日課だった時代もあったのだろう。

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その集落も、いまでは限界集落に近づきつつある。

この家は空家のように見える。自分が都会人でそれなりの稼ぎがあって、週末の田舎暮らしをするなら、こんなところに家を買ってみたいと思うような場所だった。

(2009年04月30日訪問)