碓氷製糸の見学・再繰場ほか

出荷用に生糸の荷姿を整える部署。

(群馬県安中市松井田町新堀)

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碓氷製糸見学コースで、繰糸場の次に連れて行かれるのが「再繰場(さいそうば)」という建物。ここでは「()(かえ)し」という工程が行われるので、「揚返場(あげかえしば)」と呼ぶこともある。

揚げ返しとは、繰糸機で小枠(こわく)に巻きつけた生糸を、大枠(おおわく)という枠に巻き直す作業である。繰糸した糸をそのまま置いておくと、繭のタンパク質の糊で固着してしまう。そのため一度巻き直して、商品の最終的な荷姿にしてゆくのだ。

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繰糸場から運ばれてきた小枠は、まず減圧浸透槽に浸けられる。

固着した糸が揚げ返し中に切れたりしないように、柔軟剤(ソーキング剤)をしみ込ませるのだ。この工程を「枠湿(わくしめ)し」という。

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揚げ返しでは、小枠を下部に置き、そこから垂直に糸を引き出して、上部にある大枠に巻き取ってゆく。

わかりにくいが、写真で手前にノズルがあって、けっこうな勢いで散水している。揚げ返し中にも小枠に散水して糸が乾かないようにしているのだ。

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大枠部分。6本の糸を同時に巻き取るようになっている。ブルーのカバーが掛けられているのは、内部が30℃ほどに加温されていて生糸が乾くようにするためである。チョークで「21(なか)」と書かれているのは、21デニールの太さの糸という意味。

糸の手前に銀色の小さな箱が6個あるが、これは生糸の節を検知するスラブキャッチャーという装置。「(ふし)」というのは、繭糸がからんだりして生糸が局所的に太くなってしまった箇所のことである。節は繰糸の段階で陶器製のボタンの小穴を通すことで除去するのだが、ここでも再度除去する。節を検知すると自動的に糸を切断し、インジケータのランプが点灯するのだろう。

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揚げ返しが終わった枠で、糸を外す作業をしていた。大枠は六角形のスポークで出来ていて、スポーク部分がスライドすることで緩めて糸を外すことができる。このように大枠から外した状態の糸の荷姿を「(かせ)」と言う。

糸を外す前に、最初と最後の糸口がわかるように木綿糸で縛っておく。これを「くち()め」という。また、綛がもつれないように3箇所に木綿糸で8の字のように縛る。これを「あみそ掛け」と言う。あみそ糸はピンクや紫などの色が付いていて、生糸の仕様ごとに使い分けている。

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大枠から外された綛は、ローラーコンベアに載せられて、次の部屋へ送られる。

この奥にある部屋はおそらく恒温室で、ここに一定時間置いて綛の湿り気のばらつきをなくすのだと思う。

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のぞき窓から見た恒温室の内部。

あまり広くないな。

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恒温室からの出口側。

この部屋は、最終的な荷姿へ加工される仕上室。

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ここでは束装(そくしょう)という作業を行う。束装とは、綛をひねったりして流通時に扱いやすい形にたばねる作業を言う。かつては、複雑な形に技巧をこらした束ね方があったが、現代ではシンプルで合理的なものになっている。

まず、綛のもつれやゴミの付着がないかをチェックしながら、上下に2本鉄の棒がでているところに綛をひっかけてゆく。ひとつの棒には4つの綛を掛ける。

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この丸い台にはたくさんの棒が挿せるようになっているが、綛4つを挿したものを6セット作る。

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そして6セット分(24個の綛)を、この「括造(かつづく)り器」にのせて圧縮して梱包する。

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こうして出来た荷姿を「(かつ)」という。現代でも「一括払い」という言葉で日常的に使われている単語である。「一括払い」はもとは生糸取引の用語だったという。

このように、単純に綛を束ねた括造りの縛り方を「長手(ながて)造り」と呼ぶ。長手造りの括ひとつの重さは約 5kg になる。括12個分の60kgを「1(ぴょう)」として、1俵が生糸取引の単位である。現代では作業者への負担を軽減するため、1俵は30kg入りの段ボール箱で2つに梱包されている。

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括には「チョップ」という商標ラベルが添付される。「生糸ラベル」と呼ぶ場合もある。

生糸が輸出製品だったころ、海外で受けるようにさまざまな東洋趣味のデザインがされて作られた。このラベルのコレクターはたくさんいるはずだ。

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色とりどりのタグ。

21、24、42、50といった数字が見える。製造工程で間違えないように、生糸の太さに応じて色分けされているのだろう。

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続いて連れて行かれた建物には、コーンやボビンに生糸を巻く機械が並んでいた。

通常、綛で出荷された生糸は、撚糸(ねんし)という工程を経て、機織りされて布になる。撚糸の機械にセットするためには、糸がボビンに巻かれている必要があって、撚糸屋さんでは綛をボビンに巻き直す作業が発生している。それでは最初からボビンに巻いて出荷したほうが便利なので、そのような荷姿でも販売しているのであろう。

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繰糸した枠から解いた糸をボビンに巻いている。

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ボビンに巻かれた糸。

かなりの太さがあるのでネットロウシルクと思われる。

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このあと他のメンバーとはぐれてしまい、次の見学場所へ向かう途中、副蚕場(ふくさんば)の横を通ったのでお願いして見せてもらった。

副蚕場とは、繰糸機から排出される薄皮繭を処理する場所だ。薄皮繭はビス(比須)糸とサナギに分離される。

部屋の入り口にはビスが干してあった。

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繰糸場からベルトコンベアで送られてきた薄皮繭が、うずたかく積もっている。

あたりにはサナギの煮えた匂いが充満している。

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天井のパイプからは水が降り注いで繭はびしょびしょだ。

別に漏水しているわけではない。カイコのサナギは油分を含んでいて、大量に備蓄すると発酵熱で自然発火することがあるのだ。

そのため常に水を掛け続けているのだろう。

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副蚕処理機。投入口でも再度水を掛けている。

ここでビスとサナギが分離される。

ビスはかつては紡績工場に出荷され、絹紡糸の原料となった。絹紡糸はネクタイや肌着など身近な絹衣料に使われる糸だ。

サナギは魚の餌の原料などに使われる。かつて製糸が発達した地域は養鯉業も盛んだった。

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これで、碓氷製糸の製造工程の見学はひととおり終わり。

このあと、見学者は土産物売り場に誘導されるのだが、その途中の渡り廊下から見える建物について見てみたい。

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これは現在は男性寮。もとは浴場だったのではないだろうか。

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これも寮。研修生などが寝泊まりする場所で、現在は浴場はここにある。

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土産物売り場。ここでは碓氷製糸で製造している生糸を使った様々な製品が直売されている。

もと、従業員食堂だった場所。

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土産物売り場を出ると、一周りして玄関に戻ってくる。

この建物は現在、1階に事務所があり、2階は寮になっている。

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ボイラー室。

製糸ではたくさんのお湯を使うので、巨大なボイラー室がある。

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薪置き場。

以前は、木造建築を解体したときに出る廃材などを受け入れて燃やして燃料にしていた。そのときの材木置き場だった場所。

いまは法律だか条例の改訂でそれができなくなり、空いたままになっている。

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重油のタンク。

無料の燃料だった廃材が使えくなったうえ、燃料代はどんどん上がっているので、製糸の経営を圧迫しているはずだ。

見学コースの全行程は約30分であった。非常にたくさんのものを見ることができるので、個人的には2時間くらいかけて見たい内容だったが、無料見学なのでぜいたくは言えないのだろう。

過去の見学者のブログを見ると、繭倉庫を見学している人々もいるようなので、できれば足早でもいいので見せてほしかった。

とはいえ、今回の見学で、製糸についてはずいぶん色々なことを知ることができた。富岡製糸場でもこうした内容が見学できればいいのにとも思う。

見学させてくださった、碓氷製糸の関係者のみなさま、ありがとうございました。

(2012年11月15日訪問)

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