地下霊場とは?

床下、地下、地底に作られた通路を歩くことで行をつむという信仰的な空間。通路は往々にして薄暗いか、あるいは、完全な闇である。真っ暗の場合は完全に手探り状態で狭い通路を進むことになる。闇の中、曲がりくねった通路を進んでいくとだんだんと方向感覚がなくなり、一種の混迷状態となってくる。参拝者はその混迷状態の中でおのずと神仏にすがり、出口に到達することで悟り(迷いから抜け出ること)を疑似体験するというわけである。したがって、地下霊場にはわざと方向感覚を失わせるようなカーブや上り下りが配置され、まるで迷路のような作りになっている場合が多い。

その点で、地下霊場ほど即興で強烈な宗教体験をあたえる装置は他にないと言えるだろう。今も昔も人々がこうしたおどろおどろしい体験を好むというところには違いがなく、今日でもだいたい地下霊場というのは参詣者が絶えないのである。初めは怖いもの見たさの気持ちであっても、信心のない人々に神仏に触れさせるきっかけになりうるのであるから、地下霊場の役割はむしろ現代においてこそ重要になってきているとも言えよう。

ここでは、地下霊場というふうにひとくくりにしているが、内容的にはバラエティに富んでいる。大きく分けたら以下の3通りになるであろうか。

  • 地下霊場:四国八十八ヶ所などの実際の霊場を地下の通路に集めたミニ霊場。
  • 胎内潜り:母親の胎内に戻り産道を通って生まれ変わる体験を疑似体験する霊場。主に富士信仰に見られる。
  • 戒壇巡り:寺の内陣の床下に通路を手探りで巡る。途中の壁の一ヶ所に“金剛杵”という仏具が取り付けてあり、それを手探りで見つけ出さなければならない。
  • もちろんいずれの地下霊場も一方通行の通路になっており、本サイトで取り上げる巡礼空間としてみても充分に堪能できる空間であることはいうまでもない。

    左の写真は、三鷹市井口院の四国四国八十八ヶ所地下霊場である。手前に入口、奥に出口が見える。