ほてい家の裃雛

まちかど雛めぐり期間に裃雛が展示される。

(埼玉県さいたま市岩槻区仲町)

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岩槻駅前の通りにある老舗料亭のほてい家。

人形の博物館、東玉の会長さんから裃雛(かみしもびな)があるからぜひ行ってみなさいと薦められた「まちかど雛めぐり」のサイトのひとつ。

一度13時半ごろ行ってみたら、ランチタイムの真っ最中でお客でごったがえしていたので、郷土資料館などで時間を潰してから再訪した。

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ランチメニュー見てみたら意外に普通のお値段。ランチとはいえ鰻重の並が2,808円スタートってどちらかといえばリーズナブルではないの? 昼どきに行列ができていたのもわかる。

岩槻まちかど雛めぐりに観光で来てでちょっと贅沢なお昼を食べるのによさそう。

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まちかど雛めぐり期間中、ランチタイム外であれば食事をしなくても人形を見学できる。

東玉の会長さんから紹介されていたので、名前を出したら若女将が直接対応してくれて展示会場を案内してくれた。

展示会場は2階の大広間の一角だった。

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すっごい華やか! さすが料亭だけあって、しつらえが上手。

裃雛って本来があまり上等な人形でもないから大量展示するとちょっと不気味な感じになりがちなのだけれど、そういう暗い感じがまったくない! 畳の縁は百人一首の絵札なんかで見る繧繝縁(うんげんべり)、人形ひとつひとつに特注で座布団を作り、その上に並べているからとにかく鮮やか。女の子の節句らしい彩度の高い展示会場になっている。

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最上段にはきらびやかな御殿雛。

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その前の畳の上にたくさんの裃雛が縦横に並んでいる。市内にある各和菓子から取り寄せたお菓子が供えてあるのもかわいらしい。

この裃雛群は、閉館した東久の人形歴史館から状態のよさそうなものをもらい受けたものなのだという。

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案内板の内容は、東久人形歴史館からの受け売り。

文化文政時代に岩槻の人形師、橋本重兵衛が考案し、江戸末期から大正時代にかけて流行した。特に言われているのが、養蚕の豊作を祈願するための人形だったというものだ。一般的な雛人形とはちょっと位置づけが違っている。

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お目当ての山繭縮緬(やままゆちりめん)を使った人形もかなりある。この振り袖の部分がそう。

縮緬とは後染(あとぞ)めの絹織物の一種だ。工程としては生糸に強い撚りをかけてから機織りし、精練してノリを落とすと糸の撚りが戻って表面がでこぼこした布になる。その後、布に柄をプリントしたり手描きしたりするというものである。

布になってから染めるから花鳥などの複雑なパターンを描くことは自在にできるが、逆にシンプルにタテ糸やヨコ糸1本だけに色を付けるということはできない。

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山繭縮緬は、機織りの際にタテ糸やヨコ糸にヤママユガの糸をところどころ入れる。織り上げて精練してから、布全体を染液に浸けて染めると、カイコの糸の部分は色が染まるが、ヤママユガの糸は染まりにくいため白い線となって現れるのだ。

ヤママユガの糸は、カイコの糸よりも光の反射率が高いので、まるで銀糸を入れたように輝いて見える。

これが山繭縮緬の特徴だ。

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見やすいようにと、テーブルの上に置いてくれた。

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振り袖の格子柄がヤママユガの糸だ。稚拙な星のような模様が刺繍で追加されている。

もしかしたら、所有していた人が自分で縫ったのかも。

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後ろ側はこんな感じ。

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三拾四年って書いてあるのかな。

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こちらの袖は刺繍がない、典型的な山繭縮緬。

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袖の芯になる和紙がはみ出てしまっている。

十二単(じゅうにひとえ)の襟のところも紙製だ。

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裃雛は基本的には男雛である。

だが、時代が下ると女雛の裃雛が出現する。

もう売れれば何でもアリなのだろう。

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女の裃雛は(まげ)を結っていないので判別できる。

このほてい家の裃雛展示は、岩槻で見た裃雛のなかで特にきれいだったし、お菓子が供えられているなど愛情も感じられた。

人形歴史館なきいま、ここが岩槻でもっとも大きな裃雛のコレクションとなったのではないか。

忙しい中、時間を割いてくださった若女将さま、ありがとうございました。

(2023年02月26日訪問)