旧蚕糸試験場事務棟

蚕糸関連の資料館になっていて展示は充実している。

(群馬県前橋市敷島町)

群馬県の製糸関連業(遺産)巡りを始めたのは、2010年のころだった。

それ以前に、2007年から稚蚕飼育所巡り、2009年から養蚕農家巡りをしてきたので、絹の生産工程を川上から川下に向けて見てきて、やっと製糸業まで行き着いたことになる。このころから、国内旅行で遠出をしたときにはなるべく製糸工場を訪問して見る目を養うようにした。そこで製糸工場がどのような外観のものなのかを少しずつ勉強してきた。そしていよいよお楽しみ、「あるのかないのかわからない、群馬の製糸工場探し」の旅に着手したのだ。

「富岡製糸場以外の製糸工場」は、ほとんどの群馬県民が「あるのかないのか意識したこともない物件」であり、そういうものを「あると信じて」探すのは、路上観察を趣味とする者にとっては最高の娯楽なのである。

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その旅の最初に、前橋市の敷島公園の敷地にある、「蚕糸記念館」を訪れてみた。

この建物は、もと国立蚕糸試験場の事務棟を移築したものだ。蚕糸試験場は敷島公園からも近い岩神町にあった施設で、現在はその跡地は集合住宅になってしまっている。

稚蚕飼育所巡りで見た、電気温床育という飼育方法が発明された研究施設でもある。

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建物は明治44年に建てられたもので、質実剛健な好ましい建物だ。

擬洋風のカテゴリに入るが、キワモノっぽさはなく、玄関の柱やペディメントにややそれっぽさが感じられる程度。

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建物の内部は、蚕糸業についての資料館になっていて、見学できる。

展示品の点数も多く、「日本絹の里」の展示よりもこちらのほうが網羅的で勉強になると思う。

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展示内容は、蚕種製造業、養蚕、座繰製糸、機織り、信仰に分かれているが、特に蚕種製造についての資料が充実している。

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他の博物館ではあまり紹介されていない「ボヤマブシ」という養蚕道具が置かれていた。

カイコに繭を作らせるためのもので、江戸時代に錦絵などに描かれている。有り体に言ってしまえば、ただの枝なのだが、まぶしひとつにしてもこうして比較できることは重要だ。

ちなみに、このやり方で繭を作らせたことがあるという養蚕農家を知っているが、カシの木を使ったと言っていた。

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製糸のコーナーは、各種の座繰器を見ることができる。座繰器とは手回し式の繰糸装置のことで、群馬県で発明されたものだと言われている。

二連式のものが二台もあるなど、全国レベルでみてもここのコレクションに匹敵するのは、岡谷蚕糸博物館だけではないか。

動力機械による製糸装置はまったく置かれていないが、前橋の製糸の特徴を追うという意味では、よいバランスだと思う。

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機織りのコーナーはややあっけない展示。手機(てばた)高機(たかばた)と、地機(じばた)が置かれている程度。産業機械の動力織機やジャカード機などはなし。

やはり前橋は養蚕と製糸の町であり、機織りは桐生市が中心の産地なのだ。

(2010年05月04日訪問)