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赤城山南麓の稚蚕飼育所

群馬県赤城山麓の稚蚕共同飼育所を巡った。

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群馬県の農村地帯を行くと、ほとんど小字につき一箇所くらいの密度で、稚蚕共同飼育所の遺構を見ることができる。稚蚕共同飼育所とは、カイコの1齢幼虫~3齢幼虫まで(=稚蚕)を飼育するための施設である。稚蚕は体が小さいため狭い場所で多量に飼育できる。群馬県では戦後、複数の農家が共同で飼育する効率的な飼育方法が広く普及した。特に、押入れのような小部屋で温度管理をしながら集中飼育する方式は、群馬県蚕業試験場が開発したといわれる管理方法で、その方式にしたがった共同飼育所が県内に無数に作られた。

その後、養蚕の衰退にともなって、集落単位での稚蚕共同飼育は消滅した。もちろん現代でもカイコの初期の育成は稚蚕共同飼育だが、飼育は農協などで実施され、農家が携わることはなくなっている。

昭和末期には集落単位の飼育所はほとんどがその役割を終えていた。だが、柱のない大スパンの構造を持ち、密閉性にも優れた建築であったため、倉庫や工場に転用されたりして、その姿は現在でも目にすることができるのである。

私は数年前からこの稚蚕共同飼育所が気になっていた。だが飼育所のどこに着目して、どう観賞したらよいかがわからないまま月日が過ぎていった。とうぜん、建築観賞の手引き書があるわけでもないし、誰かに観賞法の教えを乞うことも望めない。いくら“すきま物件"が好きな私にとっても、これは暗中模索のカテゴリーだった。そういうときは、とにかく数を見てみるしかないと思い、2007年の1月~2月の週末と連休を利用して、赤城山麓の飼育所を集中的に見学することにした。同行した郷里の友人も「こんなものを数見て、ホントに何か見えるようになるのか?」と半信半疑の様子だったが、私も半信半疑だったのだ。

今回の飼育所めぐりで、赤城山の南面のすそ野に現存する飼育所は7割以上は確認したと思う。そして、結果として「飼育所のここを見ればいい」というポイントがおぼろげながら見えてきた。このサイトでは過去に3箇所の飼育所を紹介したが、いま読み返すと、チェックポイントについてはほとんど触れられていない。つまり、今回の飼育所巡りによって、私自身に明らかにモノを見る目がついたことになる。馬鹿らしいと思えるようなもので、数を見てみてみるものだ。