川端稚蚕共同飼育所

クリーム色の外壁のブロック造の建物。

(群馬県榛東村山子田)

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金剛寺から柳沢寺へ向かう道で見かけた稚蚕共同飼育所。

稚蚕共同飼育所についてはまだサンプル数が少ないので様式などを論じる段階ではないが、以前に紹介した下仁田の物件と比べて“いかにも稚蚕共同飼育所らしい"形をしていると思う。つまり私が考える稚蚕共同飼育所とはこんな形式の建物だということだ。

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西側の壁面にシャッターが取り付けられているがこれは後補のものではないだろうか。

それ以外に開口部は少ない。温度管理のためと雑菌などの侵入をふせぐためであろう。全体的なシルエットは倉庫のようであるが、荷の出し入れをするための大きな入口が見当たらないので倉庫でないことはわかる。‥‥もっとも建物のそんなディテールを観察して「これは共同稚蚕飼育所だ」などと判断するわけではない。稚蚕共同飼育所には稚蚕共同飼育所のオーラというものもある。

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窓から中をのぞいてみた。もちろん現在は稚蚕の飼育には使われておらず、一部が倉庫として使われている。採光も少ないので中は薄暗い。奥の壁を見るとブロック造になっていることがわかる。

私は物心つくかつかないかのころに一度だけ稚蚕飼育所の中に入らせてもらった記憶がある。中がとても暑かったのにびっくりしたことをおぼろげに覚えている。稚蚕の飼育温度は28~29℃というから、季節によっては室外よりもかなり温度が高いのだ。

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稚蚕飼育所の北側には大きな養蚕農家が見えた。このような農家の二階は養蚕のためのスペースであり、言って見れば住居兼絹糸生産工場といった建造物なのだ。他府県の民家とくらべて巨大さが際立つ。

近くの農家で話を聞いたところ、この稚蚕飼育所が使われていたのは10年くらい前までのことだそうだ。現在は榛東村全体で養蚕農家は20数戸しかなく、この飼育所の範囲(5区)には1軒も残っていないという。

今朝(2004.3)の新聞のコラムによれば、国内の養蚕農家の数は3,000戸を下回っているという。養蚕は産業としては完全に崩壊したと言えよう。人が住んでいる農家の母屋は別として、用途がなくなった稚蚕共同飼育所は急速に失われていくことが予想される。物件の調査はここ10年くらいが勝負となるであろう。

(2002年03月09日訪問)